「先生はもうおしまいですか?」
ようやく、これから料理を取りに行こうとお皿を手に持った。先程料理が盛り付けられてやってきた佐藤先生のお皿も、今は何も乗っていない。右腕を椅子の後ろにかけて、冷水を口に含んでいる。その姿がいやに暇たそうで、私の食事が終わるのを待つだけだと言うのなら申し訳ない気持ちと嫌な気持ちが半々に込み上がってくる。食べている姿なんてジッと目の前で見られたくないし、待たれるとゆっくり食べられない。
「いんや。目当てのものが出てきたら、また取りに行くつもりだ」
「目当てって?」
眼鏡の先を光らせながら、獲物を狙う視線をこちらに向けて、彼は告げた。
「エビのチリソース」
「!」
私の頭の中に、湯気立つ朱色の鮮やかなエビチリが浮かび上がる。
「しかも中華のシェフが作ったやつだ」
「!!」
衣がついておらず、エビそのものに絡まることで、新鮮な歯ごたえを感じられるエビのチリソース。トロリとしたものではなくサラッとしているのが、このホテルの中華で出されるチリソースの特徴だ。子供にも食べやすいよう甘みが強めで、後味に辛味がやってくるあれは、もうすこしエビの数を増やして欲しいと願わずにはいられない一品。添えてある殆ど飾りのパセリですらソースに付けて食べてしまうあれがこのバイキングで並ぶ。バイキングイコール食べ放題。常識の範囲内で食べ放題。
「八時から並ぶらしいから、それまでに……」
「他の料理を取って、準備万端に備えろということですね! 了解です」
「違う。問題があるからそれをどうにかせにゃならん」
首根っこを掴まれ、静止させられた。