「私達が帰ってくるまでの間、夜明くんと二人で一緒に暮らしなさい?」


 疑問形の割には、拒否権はないと笑顔に記されている。佐藤先生はあらかじめ知らされていたようで特に驚いた反応を見せず、チラリと私の顔色を窺いながら静かに食事をしていた。

 言いたいことは沢山あり、ありすぎて、言葉が入り口付近で詰まってしまって何も出てこないでいると、お皿の上のデザートを全て食べ終えた母が椅子から立ち上がった。


「じゃあ、あとは二人でごゆっくり」

「!? 待って!」


 一歩遅れて、ようやく私は体を動かせた。


「親子の再会はもう果たしたわ。兄妹の再会に私はお邪魔でしょ?」

「他人じゃあるまいし何言ってるの!? 帰られる方が私は――」

「せっかく帰ってきたのにパパが一人で可哀想だと思わないの? 私は先に帰るけど、旭はゆっくり食べていていいわよ。まだ時間はたっぷりあるんだから、夜明くんと二人で三人分の元を取ってよね。お会計は済ませて置くから」


 母は足を止めなかった。

 シェフの人に見送られながら、会計を済ませる姿を私は席から見つめていた。あの入り口の外に、私はまだ出られない。


「諦めた?」


 ため息をついた私に、先生が言った。


「母は頑固ですし、しつこく食い止めるほど子供でもありません」

「大人と子供の中間か」

「食事くらい一人でも平気ということです」


 バイキングに一人で来たことはないけれど。案外平気だろうと思う。連れがトイレに行っている間や、料理を取りに行っている最中は一人なのだから。何人で来ようと似たようなものだ。