「世界一周旅行、ペアチケット?」
「そう! 福引きで当たったのよー! 誰か知り合いにあげようかなとも思ったんだけど、パパに電話したら一緒に行こうって!」
「お父さん仕事は!?」
「帰ってきたって言ったじゃない」
「嘘じゃ無かったの!?」
「今日は久しぶりに帰ってきて、時差ボケで動けなくて来られなかったのよー。今頃家で、ゆっくり好物のおでんでも食べているんじゃないかしら」
きっとコンビニのおでんだ。父は家のお手伝いさんが作ってくれるおでんも大好きだが、コンビニのおでんの特有の味をえらく気に入っていた。日本に帰ってきておでんが食べたくて仕方なかったのだろう。
「長期休暇は娘を一人残して夫婦水入らずの世界旅行ってわけね」
「旭ちゃんも行く?」
「行かない。学校あるし飛行機は嫌い。海外なんて絶対に行かないよ」
あんな鉄の塊が空を飛ぶなんてどうかしている。旅行なんてものに、命をかける趣味は私にはない。もし私が福引きで一等を当てたら、当てたことには大喜びをするけど賞品には全く喜ばないだろう。きっと最下賞の方が良かったと呟いている。
「そう言うと思った。だから、夜明くんを呼んだのよ。ここまで言ってもまだ理解しない?」
「しない」
「年頃の一人娘を一人、家に残していけるわけないでしょ」
「お手伝いさんが大勢いるじゃない」
「他人の中に一人残すっていうのは、余計に不安になるものなの。せめて身内が一人でもいるなら話は別」
「それってつまり……」