一刻も早く答えて欲しいというのに、母は落ち着けと言わんばかりにのんびりと苺のショートケーキを口に運ぶ。お手拭きで口を拭いてから私に告げた。


「子供にも言えない事情というものが大人にはあるの。あなたのお兄ちゃんはちゃんと生きてるわ。私の親友の佐藤さんの子供として」

「親友……」


 親戚ではないらしい。


 昔から母は言っていた。世の中に「佐藤さん」は何人もいる。「佐藤」という名字はこの国で最も多い。だからこの先、何人もの佐藤さんと出会うことになる。自分のようにと。

 母の親友も、佐藤さんの一人だったらしい。


「佐藤先生は、このことを知っていたんですか? 私が……その……妹だって」

「ああ。お前が入学する前に知らされた」

「よく信じましたね」

「驚いたけど、いい歳した大人をからかっている風には見えない真面目な空気だったからな。佐藤はやっぱり信じられない?」

「そりゃあ、まあ。高級リゾートホテル内とはいえ、真剣な話には不似合いな、賑やかバイキング空間ですし」


 料理が味だけでなく見た目が大事なように、重要な話の内容にはそれに見合った空間が大切になる。


「それに、私はこういう話をあっさりと受け入れられるほど、大人ではありません」


 自分で言っておいて情けなくも感じるが、受け入れたところでそれこそ信じてもらえないと思う。自分の感情は決しておかしなことではないとだけ信じられた。


「家族だから、だよ」