混乱と困惑で動けないでいる私に対し、佐藤先生は母の一言で硬直を脱した。我に返り、手に持っていたお皿の一枚を私の目の前の席……自分の席のテーブルに置いて、もう一枚のお皿を母に手渡す。
「いえ。すみません、トルテとプディングだけタイミングが悪く無くなっていまして」
「いいのよ! 次行ったとき、殆ど誰も取っていない新品に近い状態がゲット出来るってことなんだから、むしろ嬉しいわ。ごめんね取りに行かせちゃって! もうすぐ旭が来ると思うと立つわけにはいかなくて――ほらっ旭、挨拶しなさい。あなたのお兄ちゃんの――」
「佐藤夜明、二十七歳独身です……って、言わなくても知ってるよな? まさか制服で来るとは思わなかった」
にこやかな笑顔の裏で、この人が今何を考えているのか、全く分からない。
「……と?」
「旭?」
「お兄ちゃんってどういうこと!? ちゃんと説明して! 確かに昔、私には兄がいたってお父さんもお母さんも言ってたけど! 生まれる前に死んだって……! だから私は一人っ子なんだって二人とも――」
「ああ、あれは嘘よ」
「嘘!?」