-side 田島亮-
ーー密室でハーフの美少女と2人きり。
それは字面だけ見ればドキドキワクワクする状況なんだろうが、残念なことに今の俺にそんな感情は微塵もない。あるのは恐怖と緊張だけである。
「あ、じゃあそこの壁の前に立ってくれる? 取材を始めるから」
「は、はい......」
って、え? 今勢いで返事して壁際に立っちゃったけど、取材のインタビューって椅子に座ってからやるものじゃないの? なんで壁際に立たなきゃいけないの?
と、早速疑念を深めた時だった。
「では取材を始めます.......そりゃ!」
ーーなんか唐突に壁ドンされた。
「え、ち、ちょっと先輩!? い、いきなり何するんですか!!!」
「.......え、何って取材だけど?」
取材ってなんだっけ?(哲学)
「な、なんで取材のために俺が壁際で渋沢先輩に迫られなきゃいけないんですか! ワケわかんないっすよ!!」
「私はこの距離感でしか良いインタビューができないの! さぁ、いいから始めるわよ!」
「いや、いくらなんでも顔が近すぎますって! こんなんじゃインタビューなんてできませんって!」
「はい、では早速インタビューを始めます。あなたが記憶喪失になったのはいつですか?」
もう嫌だ.......全然話聞いてくれねぇ......
「え、えーっと.......俺が記憶喪失になったのは二学期の始業式の日です.......」
このままインタビューを始められるのは正直きつい。が、俺にこの状況を打開する策など無い。というわけで俺は先輩からの質問に素直に答えて、この取材をさっさと終わらせる方針に切り替えることにした。
「なるほど。では、記憶喪失になった原因は何ですか?」
「交通事故です。通学途中に軽トラに跳ねられました」
「ふむふむ、じゃあ記憶喪失になった後の周囲の反応はどうだったかな?」
「うーん.......俺に自然に接するように心がけてくれていたと思いますね。その気遣いにとても感謝しています」
「ふむふむ、なるほどなるほど......なんかアレだね。良い話だけどインパクトに欠けるよね」
「.......はい?」
「ねぇ、記事にした時に面白くなりそうな話とかない?」
「いや、いきなりそんなことを言われましても......」
「えぇー、このままだとなんか面白みのない記事になりそうなんだよー。ねえ、なんか無いのー? 周囲の人の気遣いとかそんなのを記事にしてもインパクトに欠けるんだよー。捏造でもなんでもいいからなんか捻り出してよー。『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とかさー」
「.......」
この時の先輩の発言は些細なものだったかもしれない。普通の人なら流せるレベルの発言だったかもしれない。でも俺は.......先輩のこの言葉には苛立ちを抑えることができなかった。
.......インパクトに欠ける? そんなの知ったことか。周りの人達の気遣いに俺はめちゃくちゃ感謝してるんだよ。その気持ちを『インパクトに欠ける』の一言で一蹴するんじゃねぇよ。俺にとっては大切な気持ちなんだよ。
あとさ、『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とか言えるものなら言ってみてぇよ。これが演技だったらどんなに楽だろうか。その一言で友達や家族が俺との思い出を無くした悲しみを消せるなら、どんなにすばらしいことか。
でもな.......現実はそうじゃないんだよ。そして今まで俺たちは、その悲しみや苦しみを長い時間をかけて乗り越えてきたんだよ。
なのに、そのことも知らないくせに軽々しくそんな発言を捏造させようとするんじゃねぇよ。いくら自分より年上の相手でもさすがに許せねぇわ。ふざけんじゃねぇよ。
あぁ、多分渋沢先輩は純粋に面白い記事が作りたくて軽い気持ちでこんな事を言ったんだろう。多分悪意を持って言ったわけではないんだ。それはなんとなく分かる。
それでも.......世の中には言っていいことと悪いことがあるんだよ。たとえ言った側は悪意を持たずに軽い気持ちで言ったとしても、受け取る側の事情や心情次第で深く傷ついたり苛立ったりすることだってあるんだ。
もしも渋沢先輩が今後も天明高校の生徒に取材を続けるんだったら、この事を知っておくべきだ。今後取材対象になる人の気分を害さないために。そして渋沢先輩自身が他人の気持ちに配慮できるようになるために。
どうも先輩にはその事を俺が教えてやらないといけない気がする。まあ、こんなことを考えるのは柄じゃないんだけどな。
.......というわけで教育的指導の開始だ。
「......どうしたの、田島くん? 急に黙り込んだりして」
「あー、いや、すいません、先輩のために面白い話を必死に考えていたんですよ」
「ふーん、それでどう? 面白い話は思いついた?」
「はい、たった今思いつきました」
「ほんとに!? 話して話して!」
「分かりました。では渋沢先輩、今から俺の隣に立ってもらってもいいですか?」
「壁に背を向けて君の隣に立てばいいの? 別に構わないけど.......なんで?」
「面白い話をするために必要なことなんです」
「ふーん。よくわからないけどまあいいや。移動するよ」
「お手数おかけします」
そして渋沢先輩は壁側で俺と並び立つような形になった。
「はい、移動したよー。こんな感じで立ってればいいの?」
「ええ、それで構いません。じゃあ今度は俺が移動しますね」
「.......え、なんで?」
「これも面白い話のために必要な事なんですよ」
そして今度は俺が移動し、渋沢先輩の真正面に立って二人で向かい合う形になる。
「え、えっと.......田島くん?」
「では失礼して......オラァ!」
「きゃっ!?」
俺は先輩に壁ドン返しを決めた。こうでもしないと、先輩は真剣に俺の話を聞いてくれそうに無いからな。まあ女の子にこんな事をするのは正直気が引けるが、今回ばかりはそんなことは言ってられない。
「え!? ちょっと田島くん!? どうしたの!? 君ってこんなことをする子だったの!?」
「.......渋沢先輩、俺は今から先輩のためになる話をします」
「面白い話の予定じゃなかったっけ!?」
「では先輩に質問です。今まで先輩は取材の時に『ちょっとこの発言まずかったかな...』とか一度でも思ったことありますか?」
「いや、全く」
答えは分かってたけど即答かよ.......
「あー、だったら今まで取材対象になった人全員に今度謝っといて下さい」
「え、なんで?」
「.......さっき先輩は俺に対して『周囲の人への気遣いはインパクトにならない』と言いましたよね?」
「うん、まあ言ったけど」
「俺はその言葉を聞いてイラっとしちゃったんです」
「え.......」
「今までも似たような発言を他の人にしたことがあるんじゃないんですか? 『〇〇はインパクトにならないからもっと面白い話をして!』が口癖になったりしてませんか?」
「そ、それは.......」
「個人的な考えですが、今後そういう発言は控えた方がいいと思います。先輩は面白い話を聞き出したくて言っているつもりでも、言われた側は自分の発言を否定されたような気分になるんです。苛立ったり傷ついたりするんです。実際に俺も結構が腹立ちましたし」
「.......」
「だから今後取材する時は取材対象になる人をもっと詳しく調べておいて下さい。そしてタブーになるような発言はないか、取材前にしっかり把握しておいて下さい。先輩はもっと人の気持ちに配慮できるようになりましょうね」
「う、うん.......分かった......」
「あー、それと、もう一つ。先輩は記事を捏造することに対して抵抗はありますか?」
「いや、全く」
うわ、マジかよ.......この人言い切りやがった......
「...コホン。では先輩は今まで捏造した話を記事にしたことはありますか?」
「ええ! 取材対象になった人に今まで何度も面白い話を考えてもらったわ!」
「ということは、それってつまり相手に無理矢理嘘をつかせたってことですよね?」
「い、いや.......私は決してそんなつもりじゃ.......」
「嘘をつかせることって取材を受ける側の本心とか、実際に起きた事を否定して別の事実を作り出させるってことですよね? なんかそれってすごく辛いことだと思うんですけど......この話を聞いても先輩は面白い記事のためにこの場で俺に嘘をつけと言えますか?」
「......」
「あと普通に考えて学校新聞でフェイクニュース流すのはアウトっす。ジャーナリスト魂を持ってるなら真実をちゃんと伝えてください」
「う、うぅ......」
え、なんかいきなり渋沢先輩が下を向いたまま大人しくなっちゃったんだけど。
..........あれ? もしかしてやりすぎちゃった? ちょっと言いすぎちゃった? 女の子を泣かせちゃった?
「......めて」
ん? 先輩が俯いたまま何やら小声で呟いているがよく聞こえない。
でも、まあ泣いているわけではないみたいだな。良かった。ちょっとホッとした。
「あのー、すいません、先輩。今何か言いましたか?」
「お、男の人が真剣に怒ってくれたのなんて......初めてなの......」
「は、はぁそうですか......はっ!」
瞬間。急に冷静さを取り戻した俺は、今自分が置かれている状況を思い出して戦慄する。
密室に若い男女が2人きり。しかも相手はハーフの可愛らしい女の子。そして俺は紛うことなき、バキバキ童貞.......これらのことから導き出される結論はただ1つ。
--なんかメチャクチャドキドキしてきた。
つーか俺、なんで先輩に壁ドンしてんの? なんか冷静になるとすっげぇ恥ずかしくなってきたんだけど。つーか先輩との距離が超近いんだけど。ほのかにシャンプーの良い匂いがして、整った顔がすぐそこにあるから直接息が当たったりして.......って静まれ俺の煩悩ぉぉぉ!
「せ、先輩! 急にこんなことしてすいませんでした! 今すぐ離れます!」
我に返り、即座に先輩から離れようとする俺。
......しかし、なぜか俯いた状態ままの先輩からいきなり右腕を掴まれて離れることができなかった。
「え!? ちょっと渋沢先輩!?」
「あのね、田島くん......私は今までかわいいかわいいってチヤホヤされてばかりで、男の人に叱られることなんて全然なかったの......」
「そ、そうですか......」
「だからね......私を叱ってくれた男の子は田島くんが初めてなの......」
「は、はあ.......」
「嬉しい.......嬉しい.......嬉しい......................好き」
「......え? 最後なんとおっしゃいました?」
「好き! 田島くん大好きぃ!」
すると渋沢先輩が突然勢いよく、俺に抱きついてきた。
「うわっ! ちょっと、渋沢先輩!? 急に何してるんですか!? 離れて下さいよ!!!!」
「いやだぁ! 離れなぁい!!!!」
「いや、なんで!?」
あのですね。渋沢先輩は俺より少し背が高いわけでしてね。だからその、今俺の顔には仁科ほどではないものの、豊かな2つの丘がムギュウっと押し付けられてるわけでして......
あぁ、理性が! 俺の理性がもたないから早く離れてくれぇぇ!!
ーー密室でハーフの美少女と2人きり。
それは字面だけ見ればドキドキワクワクする状況なんだろうが、残念なことに今の俺にそんな感情は微塵もない。あるのは恐怖と緊張だけである。
「あ、じゃあそこの壁の前に立ってくれる? 取材を始めるから」
「は、はい......」
って、え? 今勢いで返事して壁際に立っちゃったけど、取材のインタビューって椅子に座ってからやるものじゃないの? なんで壁際に立たなきゃいけないの?
と、早速疑念を深めた時だった。
「では取材を始めます.......そりゃ!」
ーーなんか唐突に壁ドンされた。
「え、ち、ちょっと先輩!? い、いきなり何するんですか!!!」
「.......え、何って取材だけど?」
取材ってなんだっけ?(哲学)
「な、なんで取材のために俺が壁際で渋沢先輩に迫られなきゃいけないんですか! ワケわかんないっすよ!!」
「私はこの距離感でしか良いインタビューができないの! さぁ、いいから始めるわよ!」
「いや、いくらなんでも顔が近すぎますって! こんなんじゃインタビューなんてできませんって!」
「はい、では早速インタビューを始めます。あなたが記憶喪失になったのはいつですか?」
もう嫌だ.......全然話聞いてくれねぇ......
「え、えーっと.......俺が記憶喪失になったのは二学期の始業式の日です.......」
このままインタビューを始められるのは正直きつい。が、俺にこの状況を打開する策など無い。というわけで俺は先輩からの質問に素直に答えて、この取材をさっさと終わらせる方針に切り替えることにした。
「なるほど。では、記憶喪失になった原因は何ですか?」
「交通事故です。通学途中に軽トラに跳ねられました」
「ふむふむ、じゃあ記憶喪失になった後の周囲の反応はどうだったかな?」
「うーん.......俺に自然に接するように心がけてくれていたと思いますね。その気遣いにとても感謝しています」
「ふむふむ、なるほどなるほど......なんかアレだね。良い話だけどインパクトに欠けるよね」
「.......はい?」
「ねぇ、記事にした時に面白くなりそうな話とかない?」
「いや、いきなりそんなことを言われましても......」
「えぇー、このままだとなんか面白みのない記事になりそうなんだよー。ねえ、なんか無いのー? 周囲の人の気遣いとかそんなのを記事にしてもインパクトに欠けるんだよー。捏造でもなんでもいいからなんか捻り出してよー。『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とかさー」
「.......」
この時の先輩の発言は些細なものだったかもしれない。普通の人なら流せるレベルの発言だったかもしれない。でも俺は.......先輩のこの言葉には苛立ちを抑えることができなかった。
.......インパクトに欠ける? そんなの知ったことか。周りの人達の気遣いに俺はめちゃくちゃ感謝してるんだよ。その気持ちを『インパクトに欠ける』の一言で一蹴するんじゃねぇよ。俺にとっては大切な気持ちなんだよ。
あとさ、『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とか言えるものなら言ってみてぇよ。これが演技だったらどんなに楽だろうか。その一言で友達や家族が俺との思い出を無くした悲しみを消せるなら、どんなにすばらしいことか。
でもな.......現実はそうじゃないんだよ。そして今まで俺たちは、その悲しみや苦しみを長い時間をかけて乗り越えてきたんだよ。
なのに、そのことも知らないくせに軽々しくそんな発言を捏造させようとするんじゃねぇよ。いくら自分より年上の相手でもさすがに許せねぇわ。ふざけんじゃねぇよ。
あぁ、多分渋沢先輩は純粋に面白い記事が作りたくて軽い気持ちでこんな事を言ったんだろう。多分悪意を持って言ったわけではないんだ。それはなんとなく分かる。
それでも.......世の中には言っていいことと悪いことがあるんだよ。たとえ言った側は悪意を持たずに軽い気持ちで言ったとしても、受け取る側の事情や心情次第で深く傷ついたり苛立ったりすることだってあるんだ。
もしも渋沢先輩が今後も天明高校の生徒に取材を続けるんだったら、この事を知っておくべきだ。今後取材対象になる人の気分を害さないために。そして渋沢先輩自身が他人の気持ちに配慮できるようになるために。
どうも先輩にはその事を俺が教えてやらないといけない気がする。まあ、こんなことを考えるのは柄じゃないんだけどな。
.......というわけで教育的指導の開始だ。
「......どうしたの、田島くん? 急に黙り込んだりして」
「あー、いや、すいません、先輩のために面白い話を必死に考えていたんですよ」
「ふーん、それでどう? 面白い話は思いついた?」
「はい、たった今思いつきました」
「ほんとに!? 話して話して!」
「分かりました。では渋沢先輩、今から俺の隣に立ってもらってもいいですか?」
「壁に背を向けて君の隣に立てばいいの? 別に構わないけど.......なんで?」
「面白い話をするために必要なことなんです」
「ふーん。よくわからないけどまあいいや。移動するよ」
「お手数おかけします」
そして渋沢先輩は壁側で俺と並び立つような形になった。
「はい、移動したよー。こんな感じで立ってればいいの?」
「ええ、それで構いません。じゃあ今度は俺が移動しますね」
「.......え、なんで?」
「これも面白い話のために必要な事なんですよ」
そして今度は俺が移動し、渋沢先輩の真正面に立って二人で向かい合う形になる。
「え、えっと.......田島くん?」
「では失礼して......オラァ!」
「きゃっ!?」
俺は先輩に壁ドン返しを決めた。こうでもしないと、先輩は真剣に俺の話を聞いてくれそうに無いからな。まあ女の子にこんな事をするのは正直気が引けるが、今回ばかりはそんなことは言ってられない。
「え!? ちょっと田島くん!? どうしたの!? 君ってこんなことをする子だったの!?」
「.......渋沢先輩、俺は今から先輩のためになる話をします」
「面白い話の予定じゃなかったっけ!?」
「では先輩に質問です。今まで先輩は取材の時に『ちょっとこの発言まずかったかな...』とか一度でも思ったことありますか?」
「いや、全く」
答えは分かってたけど即答かよ.......
「あー、だったら今まで取材対象になった人全員に今度謝っといて下さい」
「え、なんで?」
「.......さっき先輩は俺に対して『周囲の人への気遣いはインパクトにならない』と言いましたよね?」
「うん、まあ言ったけど」
「俺はその言葉を聞いてイラっとしちゃったんです」
「え.......」
「今までも似たような発言を他の人にしたことがあるんじゃないんですか? 『〇〇はインパクトにならないからもっと面白い話をして!』が口癖になったりしてませんか?」
「そ、それは.......」
「個人的な考えですが、今後そういう発言は控えた方がいいと思います。先輩は面白い話を聞き出したくて言っているつもりでも、言われた側は自分の発言を否定されたような気分になるんです。苛立ったり傷ついたりするんです。実際に俺も結構が腹立ちましたし」
「.......」
「だから今後取材する時は取材対象になる人をもっと詳しく調べておいて下さい。そしてタブーになるような発言はないか、取材前にしっかり把握しておいて下さい。先輩はもっと人の気持ちに配慮できるようになりましょうね」
「う、うん.......分かった......」
「あー、それと、もう一つ。先輩は記事を捏造することに対して抵抗はありますか?」
「いや、全く」
うわ、マジかよ.......この人言い切りやがった......
「...コホン。では先輩は今まで捏造した話を記事にしたことはありますか?」
「ええ! 取材対象になった人に今まで何度も面白い話を考えてもらったわ!」
「ということは、それってつまり相手に無理矢理嘘をつかせたってことですよね?」
「い、いや.......私は決してそんなつもりじゃ.......」
「嘘をつかせることって取材を受ける側の本心とか、実際に起きた事を否定して別の事実を作り出させるってことですよね? なんかそれってすごく辛いことだと思うんですけど......この話を聞いても先輩は面白い記事のためにこの場で俺に嘘をつけと言えますか?」
「......」
「あと普通に考えて学校新聞でフェイクニュース流すのはアウトっす。ジャーナリスト魂を持ってるなら真実をちゃんと伝えてください」
「う、うぅ......」
え、なんかいきなり渋沢先輩が下を向いたまま大人しくなっちゃったんだけど。
..........あれ? もしかしてやりすぎちゃった? ちょっと言いすぎちゃった? 女の子を泣かせちゃった?
「......めて」
ん? 先輩が俯いたまま何やら小声で呟いているがよく聞こえない。
でも、まあ泣いているわけではないみたいだな。良かった。ちょっとホッとした。
「あのー、すいません、先輩。今何か言いましたか?」
「お、男の人が真剣に怒ってくれたのなんて......初めてなの......」
「は、はぁそうですか......はっ!」
瞬間。急に冷静さを取り戻した俺は、今自分が置かれている状況を思い出して戦慄する。
密室に若い男女が2人きり。しかも相手はハーフの可愛らしい女の子。そして俺は紛うことなき、バキバキ童貞.......これらのことから導き出される結論はただ1つ。
--なんかメチャクチャドキドキしてきた。
つーか俺、なんで先輩に壁ドンしてんの? なんか冷静になるとすっげぇ恥ずかしくなってきたんだけど。つーか先輩との距離が超近いんだけど。ほのかにシャンプーの良い匂いがして、整った顔がすぐそこにあるから直接息が当たったりして.......って静まれ俺の煩悩ぉぉぉ!
「せ、先輩! 急にこんなことしてすいませんでした! 今すぐ離れます!」
我に返り、即座に先輩から離れようとする俺。
......しかし、なぜか俯いた状態ままの先輩からいきなり右腕を掴まれて離れることができなかった。
「え!? ちょっと渋沢先輩!?」
「あのね、田島くん......私は今までかわいいかわいいってチヤホヤされてばかりで、男の人に叱られることなんて全然なかったの......」
「そ、そうですか......」
「だからね......私を叱ってくれた男の子は田島くんが初めてなの......」
「は、はあ.......」
「嬉しい.......嬉しい.......嬉しい......................好き」
「......え? 最後なんとおっしゃいました?」
「好き! 田島くん大好きぃ!」
すると渋沢先輩が突然勢いよく、俺に抱きついてきた。
「うわっ! ちょっと、渋沢先輩!? 急に何してるんですか!? 離れて下さいよ!!!!」
「いやだぁ! 離れなぁい!!!!」
「いや、なんで!?」
あのですね。渋沢先輩は俺より少し背が高いわけでしてね。だからその、今俺の顔には仁科ほどではないものの、豊かな2つの丘がムギュウっと押し付けられてるわけでして......
あぁ、理性が! 俺の理性がもたないから早く離れてくれぇぇ!!