夕暮れ色に染まっていく街の景色を、俺はジャングルジムに背中を預けながら眺めていた。昼間あれだけ賑やかだったこの公園も、この時間になるとぽっかりと穴が空いたように静まり返っていた。
俺は左手をズボンのポケットの中に入れると、指先に触れたものをゆっくりと取り出した。
手のひらの上にあるのは、真那から貰った小さなプレゼント。それは夕陽を浴びて赤くほのかに輝いている。
「何だろう、これ……」
あの白い箱の中に入っていたのは、メッキのような素材で作られた同じような小さな箱だった。
これが真那からの誕生日プレゼントであることはあの手紙でわかったのだが、具体的に何に使うものなのかまでは記されておらず、『歩との約束、守ったよ!』と今にも声まで聞こえてきそうな彼女らしい言葉が最後に添えられているだけだった。
箱のようには見えるのでガレージで何度も開けてみようと試したのだが、開く気配はまったくなかった。真那らしいといえばそうなのだが、これが何なのかまったくわからない。
俺は真那からのプレゼントを顔に近づけると、目を細めながらじっと見つめた。すると何の装飾もないと思っていたその箱に、S字マークのような小さな飾りがついていることに気が付いた。
不思議に思って右手の人差し指で触れてみると、その飾りはどうやら動くみたいで少し斜めにズレてしまう。と、その瞬間。パチンと小さな音が鳴ったかと思うと、突然箱の蓋が開いた。
「うおッ」
驚いた俺が思わず声を発した時、近くにいた鳩が羽ばたく音が聞こえた。直後、俺の耳に聞こえてきたのは、どこかで聞き覚えのあるメロディだった。
「これって……」
金属によって奏でられるその柔らかい音色は、かつて真那が鼻歌でよく歌っていたあの曲だった。どうやらこの小さな箱は、オルゴールになっていたようだ。
やっと箱の正体がわかった俺は、そっと瞼を閉じるとその音色に耳を傾けてみる。規則的に音を奏でながらも、それはどこか自由な音色で、まるで作り手である真那が歌っているようにも思えた。
メロディと一緒に溢れてくる想いに胸が熱くなり、それが目元までこみ上げてきそうになったので俺は慌てて閉じていた瞼を開けた。その瞬間、俺は自分の視界に飛び込んできたものに思わず目を疑ってしまう。
「え?」
俺のほんの目と鼻の先、そこには翼を広げて空へと向かって飛び立つ鳩の姿があった。
けれどもおかしいのだ。
大きく翼を広げて目線の高さまで羽ばたいているその鳩は、まるで時間を止めたかのようにピクリとも動かず宙に浮いていた。
「どうなってんだよこれ……」
驚きのあまり声を漏らした俺は、恐る恐る鳩へと近づく。それでも鳩は剥製のように微動だにせず、飛び去っていく気配はない。
一体何が起こってしまったのかとゴクリと唾を飲み込んだ時、俺は自分の周囲で起こっている異変に気付いた。
鳩だけじゃない。足下を舞う枯れ葉も、公園の脇道を散歩している人も、そしてその向こうに見える車やバスでさえも、自分の視界に映る何もかもが、まるで写真を見ているかのように時を止めていた。
状況がまったく理解することができず、俺は瞬きも忘れてその場に立ち尽くしてしまう。
そんな自分の耳に聞こえてくるのは、左手に握っているオルゴールの音色だけ。風が吹く音も、街の喧騒も、さっきまで聞こえていたはずの様々な音も時間の流れと一緒に消えてしまっている。
と、その時。そんな静寂の世界の中で、ふいに人の声が聞こえてきた。
俺は左手をズボンのポケットの中に入れると、指先に触れたものをゆっくりと取り出した。
手のひらの上にあるのは、真那から貰った小さなプレゼント。それは夕陽を浴びて赤くほのかに輝いている。
「何だろう、これ……」
あの白い箱の中に入っていたのは、メッキのような素材で作られた同じような小さな箱だった。
これが真那からの誕生日プレゼントであることはあの手紙でわかったのだが、具体的に何に使うものなのかまでは記されておらず、『歩との約束、守ったよ!』と今にも声まで聞こえてきそうな彼女らしい言葉が最後に添えられているだけだった。
箱のようには見えるのでガレージで何度も開けてみようと試したのだが、開く気配はまったくなかった。真那らしいといえばそうなのだが、これが何なのかまったくわからない。
俺は真那からのプレゼントを顔に近づけると、目を細めながらじっと見つめた。すると何の装飾もないと思っていたその箱に、S字マークのような小さな飾りがついていることに気が付いた。
不思議に思って右手の人差し指で触れてみると、その飾りはどうやら動くみたいで少し斜めにズレてしまう。と、その瞬間。パチンと小さな音が鳴ったかと思うと、突然箱の蓋が開いた。
「うおッ」
驚いた俺が思わず声を発した時、近くにいた鳩が羽ばたく音が聞こえた。直後、俺の耳に聞こえてきたのは、どこかで聞き覚えのあるメロディだった。
「これって……」
金属によって奏でられるその柔らかい音色は、かつて真那が鼻歌でよく歌っていたあの曲だった。どうやらこの小さな箱は、オルゴールになっていたようだ。
やっと箱の正体がわかった俺は、そっと瞼を閉じるとその音色に耳を傾けてみる。規則的に音を奏でながらも、それはどこか自由な音色で、まるで作り手である真那が歌っているようにも思えた。
メロディと一緒に溢れてくる想いに胸が熱くなり、それが目元までこみ上げてきそうになったので俺は慌てて閉じていた瞼を開けた。その瞬間、俺は自分の視界に飛び込んできたものに思わず目を疑ってしまう。
「え?」
俺のほんの目と鼻の先、そこには翼を広げて空へと向かって飛び立つ鳩の姿があった。
けれどもおかしいのだ。
大きく翼を広げて目線の高さまで羽ばたいているその鳩は、まるで時間を止めたかのようにピクリとも動かず宙に浮いていた。
「どうなってんだよこれ……」
驚きのあまり声を漏らした俺は、恐る恐る鳩へと近づく。それでも鳩は剥製のように微動だにせず、飛び去っていく気配はない。
一体何が起こってしまったのかとゴクリと唾を飲み込んだ時、俺は自分の周囲で起こっている異変に気付いた。
鳩だけじゃない。足下を舞う枯れ葉も、公園の脇道を散歩している人も、そしてその向こうに見える車やバスでさえも、自分の視界に映る何もかもが、まるで写真を見ているかのように時を止めていた。
状況がまったく理解することができず、俺は瞬きも忘れてその場に立ち尽くしてしまう。
そんな自分の耳に聞こえてくるのは、左手に握っているオルゴールの音色だけ。風が吹く音も、街の喧騒も、さっきまで聞こえていたはずの様々な音も時間の流れと一緒に消えてしまっている。
と、その時。そんな静寂の世界の中で、ふいに人の声が聞こえてきた。