その日の夜、俺はなかなか寝付くことができなかった。
 どれだけ瞼を強く閉じても、頭の中では真那のお爺さんから聞いた話しが蘇ってきてしまう。
 あのオルゴールのことや、そして、これから自分がどうしていけばいいのかということも。
 真っ暗な世界の中で、時計の音だけが静かに響いていた。こうしている間にも自分の身体は、確実に未来に向かって進んでいるのだ。それは同時に、真那と共に過ごしていた日々から遠ざかっていくことを意味している。
 俺は小さくため息を吐き出すと、ベッドから立ち上がり、机の上のライトをつけた。突き刺さるような眩しい光に一瞬目を細めるも、それは暗闇を照らすには心細い。
 手元だけ明るくなった空間で、俺は机の上に置いてある写真立てを見た。そこには自分と椿、そしてその間には満面の笑みを浮かべている真那の姿。薄暗い部屋の中で見ても、彼女のその笑顔は、心に焼き付くほど鮮明に映った。
 俺は締め付けるような胸の痛みをため息に変えると、今度は机に置いていたオルゴールを手に取り、その蓋を開けようとした。が、もろちん開くことはない。

 俺はもう一度、真那と会うことができるのだろうか……

 そんなことを思いながら、俺は暗闇の中でぼんやりと浮かび上がるカレンダーを見つめた。視線の先、新しい印が付けられた今度の日曜日は、今の自分にとって何よりも大切な日。
 何故ならその日は、もし真那が生きていれば、彼女が18歳を迎える特別な日だったのだから。