うる覚えの記憶に不安を感じていたものの、ありがたいことに真那の祖父のお店は地図アプリで検索することができた。それどころか、いつの間にかホームページまで出来ていたので驚いた。おそらく、生前真那が祖父の為に作ったのだろう。
 スマホの画面に表示された小さな矢印に導かれるまま自転車を漕いでいくと、目の前にはどこか見覚えのある懐かしいお店が見えてきた。
 真那のお爺さんが営む骨董屋は、こじんまりとしたビルの一階にあるお店だった。
 白いペンキが塗られた壁に、木枠で作られた入り口や窓は、古びた印象はあるが、味のあるお洒落なカフェでも十分通りそうだ。
 クローズの札は付けられていないので、俺は一度小さく深呼吸をすると、おそるおそる右手で扉の取手を握る。そして力を込めてゆっくりと扉を開いていくと、頭上からカランと鈴の音が聞こえてきた。
 すいません、と声を発しようとしたが誰もいないのか、狭い店内には人の気配がない。俺はとりあえず店の中に足を踏み入れると、静かに扉を閉めた。大きな窓から差し込む陽の光が、棚やテーブルにところせましと並べられた様々な形をした骨董品を照らしている。
 おそらく異国のものが多いのだろう。その光景は何となく、おとぎ話にでも出てきそうな雰囲気があった。
 ぎしりと年季が入った音がする床板を踏みながら、俺はゆっくりと店内を進んでいく。入り口からまっすぐに伸びる細い通路の先には小さなカウンターがあり、その奥には木製の扉があった。
 ふと目に入った不思議な形をした照明に何となく手を伸ばそうと時、「いらっしゃい」とどこからともなく突然声が聞こえてきたので、俺は思わず肩をビクリと震わせた。そして慌てて辺りを見回すと、誰もいないと思っていたカウンターの奥に背中を丸めて椅子に座っている老人の姿が見えた。よく見ると何か修理でもしているのか、老人は手元の台をじっと見つめたまま片手に工具を握っている。

「あ、あの……」
 
 俺がおずおずとした声を漏らしながら近づいていくと、老人は持っていた工具を台の上に置いてゆっくりと顔を上げた。
 深く皺が刻まれたその顔とは対照的に、こちらを見つめる両目には若々しさがあった。無邪気さを閉じ込めたようなその瞳に、俺は一瞬、何故だか真那の面影を感じた。

「いやーすまないね。すぐに気づかなくて」
 
 抑揚のあるしわがれた声で老人が言った。俺は小さく首を横に振ると、「大丈夫です」とぼそりと答える。おそらくこの老人が、真那の祖父なのだろう。幼い頃に会った記憶はあるが、はっきりとは顔を覚えていない。