「なあ親父……」
いつもの夕飯の席で、俺は珍しく自分から口を開いた。その言葉に、「なんだ?」と父親が少し驚いた表情を浮かべる。
「その……車以外でも直せるものとかあるのか?」
ぎこちない口調でそんなことを尋ねると、親父は「うーん」と考えるように顎をさする。
「物にもよるけどな……。ちなみにどんなやつだ?」
「例えばその……オルゴールとか」
「オルゴール?」と同じ言葉を繰り返した親父が目を丸くする。
「そんなもの俺に直せるわけないだろ。真那ちゃんじゃあるまいし」
「だよな……」と俺は大きくため息をついた。するとその会話をキッチンで聞いていた母親が口を開く。
「オルゴールだったら、真那ちゃんのお爺さんなら直せるじゃないかしら? ほら、海沿いの街で骨董品のお店やってるあのお爺さん」
「ああ」と母親の言葉に何か思い出したように親父が声を漏らした。
「たしかにあの人なら直せるかもしれないな。昔は技術者の仕事をやってたらしいし。ほら、歩もガキの頃にロボットのおもちゃ直してもらっただろ?」
「そうだっけ?」
俺は眉間に皺を寄せると頭の中にある記憶の糸を辿った。
真那のおじいちゃんとは幼い時に何度か会ったことはある。それに、真那が大のおじいちゃん子だったので、どんな人なのか話しはよく聞いていた。
寡黙で職人肌。一度スイッチが入るととことん集中することや、目を瞑りながらでも時計を修理できるなど。
たぶん、盛るに盛られて話しを聞かされていたので、今となってはどれが本当なのかわからないが……。
それでも父と母の反応を見る限り、腕が立つことは事実なのだろう。
俺は僅かな希望が見えたことに少し安堵した。これでもしオルゴールを直すことができれば、これからも真那と会うことができる。
そんなことを思いながらコップに口をつけた時、再び母親の声が聞こえた。
「でも歩の口からオルゴールなんて珍しいわね。そんなに大切なものなの?」
洗い終わった食器をふきんで拭きながら尋ねてくる母親に、俺は思わず少し咳き込んでしまう。
「うん、まあ……」とだけぎこちなく答えると、何もかもお見通しなのか、母親はクスリと笑ってそれ以上は何も聞いてこなかった。
「真那ちゃんのお爺さんのことなら、一度椿ちゃんに聞いてみたらいいんじゃない?」
「……そうだな」
ぼそりと返事をすると、俺は残ったおかずを口の中へと放り込む。頭に浮かぶのは、花火大会の時、悲しそうな表情を浮かべて去っていった椿の姿。
明日、もう一度ちゃんと話してみるか。
俺はそんなことを思うと箸を置き、「ごちそうさま」と言って席を立つ。ふと前を見ると、久しぶりに真那の名前を口にした父親は、食卓のテーブルに飾っている彼女の家族と一緒に撮った写真を懐かしそうに眺めていた。
いつもの夕飯の席で、俺は珍しく自分から口を開いた。その言葉に、「なんだ?」と父親が少し驚いた表情を浮かべる。
「その……車以外でも直せるものとかあるのか?」
ぎこちない口調でそんなことを尋ねると、親父は「うーん」と考えるように顎をさする。
「物にもよるけどな……。ちなみにどんなやつだ?」
「例えばその……オルゴールとか」
「オルゴール?」と同じ言葉を繰り返した親父が目を丸くする。
「そんなもの俺に直せるわけないだろ。真那ちゃんじゃあるまいし」
「だよな……」と俺は大きくため息をついた。するとその会話をキッチンで聞いていた母親が口を開く。
「オルゴールだったら、真那ちゃんのお爺さんなら直せるじゃないかしら? ほら、海沿いの街で骨董品のお店やってるあのお爺さん」
「ああ」と母親の言葉に何か思い出したように親父が声を漏らした。
「たしかにあの人なら直せるかもしれないな。昔は技術者の仕事をやってたらしいし。ほら、歩もガキの頃にロボットのおもちゃ直してもらっただろ?」
「そうだっけ?」
俺は眉間に皺を寄せると頭の中にある記憶の糸を辿った。
真那のおじいちゃんとは幼い時に何度か会ったことはある。それに、真那が大のおじいちゃん子だったので、どんな人なのか話しはよく聞いていた。
寡黙で職人肌。一度スイッチが入るととことん集中することや、目を瞑りながらでも時計を修理できるなど。
たぶん、盛るに盛られて話しを聞かされていたので、今となってはどれが本当なのかわからないが……。
それでも父と母の反応を見る限り、腕が立つことは事実なのだろう。
俺は僅かな希望が見えたことに少し安堵した。これでもしオルゴールを直すことができれば、これからも真那と会うことができる。
そんなことを思いながらコップに口をつけた時、再び母親の声が聞こえた。
「でも歩の口からオルゴールなんて珍しいわね。そんなに大切なものなの?」
洗い終わった食器をふきんで拭きながら尋ねてくる母親に、俺は思わず少し咳き込んでしまう。
「うん、まあ……」とだけぎこちなく答えると、何もかもお見通しなのか、母親はクスリと笑ってそれ以上は何も聞いてこなかった。
「真那ちゃんのお爺さんのことなら、一度椿ちゃんに聞いてみたらいいんじゃない?」
「……そうだな」
ぼそりと返事をすると、俺は残ったおかずを口の中へと放り込む。頭に浮かぶのは、花火大会の時、悲しそうな表情を浮かべて去っていった椿の姿。
明日、もう一度ちゃんと話してみるか。
俺はそんなことを思うと箸を置き、「ごちそうさま」と言って席を立つ。ふと前を見ると、久しぶりに真那の名前を口にした父親は、食卓のテーブルに飾っている彼女の家族と一緒に撮った写真を懐かしそうに眺めていた。