たとえ自分の身にどんなことが起こったとしても、いつも通り朝はやってくる。
 俺はそんなことを思いながら、相変わらずセミの鳴き声がうるさく響く中、学校までの道を歩いていた。昨夜火花が盛大に散っていたことが嘘のように、頭上に広がっているのは眩し過ぎるくらいの青空だ。
 そんな空を見上げながら俺は細めていた目をそっと伏せると、左腕につけている腕時計を見る。規則的に動いている針が指し示す時刻は、ポケットから取り出したスマホに表示されている時間と狂いなく同じだった。
 
 だとしたら、やっぱり昨日は……

 そんな言葉と共に脳裏に浮かぶのは、昨夜真那と一緒にいた時の出来事。あの時、オルゴールが鳴り止んだ時、この腕時計が指し示していた時間は、真那と再会してからまだ10分経っていなかった。
 俺はそんなことを考えると、無意識にズボンのポケットの中にあるオルゴールを握りしめる。真那が話していた通り、きっとこのオルゴールに何かが起こり始めているのだろう。
 そんな不安から目を逸らすように、俺は歩調を早めて学校へと向かった。
 教室にたどり着くと、すでに作業を始めいる生徒がちらほらと目に映った。その中には昨夜急に立ち去ってしまった椿の姿も。

「……」

 椿も俺が教室に入ってきたことに気づいたようで一瞬こちらを見てきたが、いつものように言葉を交わすことはなかった。
 気まずそうにすぐに目を逸らす彼女の姿を見て、俺も思わず目を逸らしてしまう。そしてそのまま椿がいる方向は見ることもなく、自分の班まで向かった。