季節は自分の日常にどんな変化が起こったとしても、また同じように巡ってくる。
 頭上から暑苦しく降り注ぐ陽光を片目を瞑って見上げながら、俺はそんなことを思った。しゃわしゃわとうるさく鳴く蝉の音さえも、記憶の中と何一つ変わらない。

 あの夏から、もう一年か……
 
 学ランに僅かに染み付いた線香の香りだけが、再び巡ってきたこの季節が今までと違うものだということを静かに告げている。そんなことを感じる度に、胸の奥にジワリと痛みが広がった。
 休日の気の抜けた街の空気から逃げるようにして家の前までたどり着くと、見慣れた制服を着た女子生徒が一人、ガレージの中で親父と話している姿が見えた。
 俺は玄関口へと向けていたつま先をガレージへと向けると、二人にそっと近づく。

「なんだ椿(つばき)、先に帰ったわけじゃなかったのかよ」

 自分よりも目線一つ低い相手に向かって声を掛けると、セミロングの黒髪を片耳にかけた椿が振り返る。

「うん……。そろそろお姉ちゃんの机、整理しようかなって思って」

 彼女はそう言うと、ガレージの奥の方を見た。その視線の先には、かつて発明家を目指してこの場所で賑やかな音を奏でていた真那の作業机があった。まるで時間から取り残されたかのように、そこだけがいつまでも変わらないままだ。

「片付けは椿ちゃんの気持ちの整理がついてからでこっちは全然構わないよ。それに、あんまり急いで片付けると『何してんだー!』ってお姉ちゃんが怒りそうだろ」

 親父の言葉に、「たしかに」と椿が力なく微笑む。俺はそんな二人のやり取りを、黙ったまま見つめていた。

「気を遣って頂いてすいません」

「いいってことよ! それにあの光景も今じゃあこの家の一部みたいなもんだからな。すぐにでも真那ちゃんがやってきて、あそこで何か作り始めそうな気がするよ」
 
 顎をさすりながら親父はそう言うと、懐かしむような目で椿と同じ方向を見つめる。俺も二人と同じように真那の作業机を見つめていたが、胸の奥がチクリと疼いてそっと視線を逸らした。

「あ、そうだ椿ちゃん。近所の橋本さんがケーキ持って来てくれたんだけど、良かったら食べてくかい?」

 親父の言葉に、椿が申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「すいません。この後、家の掃除を手伝うことになってて……」

「そっか、そりゃあ仕方ないな。お父さんとお母さんにもよろしく伝えといてくれ。ほら歩、椿ちゃん送っていってやれ」

「え? なんで俺が」

「なんでってお前、女の子を一人で帰らすつもりか? 真那ちゃんの時は……」

 親父が喋りきる前に、「わかったって」と俺は慌てて口を開いて話しを遮った。

「いいよ私は、別に送ってもらわなくても……」

「親父のやつ言い出したら聞かないんだよ。ほら、行くぞ……」
 
 俺は椿の耳もとで小声でそう呟くと、ガレージの外へと向かって歩き出した。すると彼女も「失礼します」と親父に言った後、俺の背中にトコトコとついてくる。