「まあでもこれで、歩が実は変態野郎だってことがわかったから以後気をつけよっと」
真那はそんな心外な言葉を口にすると、よいしょよいしょと言って座布団ごと俺から離れていく。
「あのな……」
さすがに変態野郎と決めつけられたままで消えられては困るので今度は俺が口を開いたと、その瞬間。何かに気づいた真那が「あッ」と先に声を発した。
「歩、時計買ったんだ!」
「え?」
突然話題が変わってポカンとする俺に、真那はそのほっそりとした人差し指を俺の左腕へと向けてきた。
「ああ……これはこの前椿が誕生日プレゼントでくれたんだよ」
俺はそう言うと真那に向かって腕時計を見せる。
「なるほど……どおりで歩にしてはセンスが良かったわけか」
「おい」
本日2度目の心外な言葉に、俺はすぐさまは目を細める。すると真那は愉快そうに肩を揺らした。
「冗談だって。歩もオシャレだよ、オシャレさん」
「……その言い方、絶対思ってないだろ」
ますます目を細めてそんなことを言えば、返ってくるのは「ほんとだって」と心のこもってない言葉。
こりゃダメだ、と諦めてため息をついた時、「あれ?」と真那が不思議そうな声を漏らした。
「その時計……もしかして、動いてる?」
「え?」
その言葉に、驚いた俺は目をパチクリとさせる。そして慌てて自分が付けている腕時計を見た。
「ほんとだ……動いてる」
何度も瞬きを繰り返す視線の先、そこには時間が止まっているはずの世界で、今もなお時を刻んでいる文字盤の姿があった。
「どういうことだ?」と思わず声を漏らした俺は、立ち上がると窓の外を見た。固まったままのレースカーテンの向こうに見えるのは、同じように時間を止めた風景だった。
「やっぱりこの腕時計だけが動いてるんだ」
いつの間にか隣に近づいてきた真那が、腕時計を見つめながら唸るように言った。
「なんで椿からもらった時計だけ動いてるんだ?」
素直な疑問を口にすると、「うーん」と真那は難しい表情を浮かべながら目を閉じる。
「何でだろ……私にもわかんないや」
再び目を開けた真那が、お手上げと言わんばかりに両手を広げた。そんな彼女の姿に、「何でだよ」と俺は思わず突っ込む。
「まあよくわかんないけど、さすが私の妹ってことだよね!」
「どんなまとめ方だよ、それ」
「だってこればっかりは私にもわかんないもん。それに、動いてるのは椿からもらった腕時計だけでしょ?」
そう言って彼女は壁に掛けている時計を指差す。椿からもらった腕時計が一秒ずつ時を進めていく中で、その時計は電池が切れたようにピタリと止まっていた。
「ほらあれも」と言って今度は真那が窓の向こうを指差す。その指先が指し示す場所を辿ってみると、部屋の時計と同じく、公園にある時計塔も時を止めていた。
ただでさえ不思議な世界の中で、さらに起こった不思議な出来事。
時間が止まったこの世界を作り出した真那にわからないのであれば、椿からもらった腕時計だけがどうして動くのかなんて俺にわかるはずがない。ただ……
「じゃあこれで真那と会ってる時も何分経ったかわかるわけだな」
「みたいだね」
俺の言葉に真那がニコリと微笑む。そして彼女はまた腕時計を覗き込んだ。
「ちゃーんと椿に感謝しないとダメだよ」
「わかってるって……ってかなんで真那がそんなに偉そうなんだよ」
「そりゃだって、私は椿のお姉ちゃんだもん」
そう言って、何故かえっへんと胸を逸らす真那。俺はそんな彼女の姿に呆れながらも、思わずぷっと吹き出してしまう。
すると「そこ笑うとこ?」ときゅっと眉を寄せた真那がわざとらしく怒った口調で言う。けれど彼女はすぐにいつもの笑顔を見せると、静かにその瞼を閉じる。
「あの子、ほんとは寂しがり屋のくせに私に似て頑固なところもあるから……。だから、歩がしっかり守ってあげてね」
真那はそんな心外な言葉を口にすると、よいしょよいしょと言って座布団ごと俺から離れていく。
「あのな……」
さすがに変態野郎と決めつけられたままで消えられては困るので今度は俺が口を開いたと、その瞬間。何かに気づいた真那が「あッ」と先に声を発した。
「歩、時計買ったんだ!」
「え?」
突然話題が変わってポカンとする俺に、真那はそのほっそりとした人差し指を俺の左腕へと向けてきた。
「ああ……これはこの前椿が誕生日プレゼントでくれたんだよ」
俺はそう言うと真那に向かって腕時計を見せる。
「なるほど……どおりで歩にしてはセンスが良かったわけか」
「おい」
本日2度目の心外な言葉に、俺はすぐさまは目を細める。すると真那は愉快そうに肩を揺らした。
「冗談だって。歩もオシャレだよ、オシャレさん」
「……その言い方、絶対思ってないだろ」
ますます目を細めてそんなことを言えば、返ってくるのは「ほんとだって」と心のこもってない言葉。
こりゃダメだ、と諦めてため息をついた時、「あれ?」と真那が不思議そうな声を漏らした。
「その時計……もしかして、動いてる?」
「え?」
その言葉に、驚いた俺は目をパチクリとさせる。そして慌てて自分が付けている腕時計を見た。
「ほんとだ……動いてる」
何度も瞬きを繰り返す視線の先、そこには時間が止まっているはずの世界で、今もなお時を刻んでいる文字盤の姿があった。
「どういうことだ?」と思わず声を漏らした俺は、立ち上がると窓の外を見た。固まったままのレースカーテンの向こうに見えるのは、同じように時間を止めた風景だった。
「やっぱりこの腕時計だけが動いてるんだ」
いつの間にか隣に近づいてきた真那が、腕時計を見つめながら唸るように言った。
「なんで椿からもらった時計だけ動いてるんだ?」
素直な疑問を口にすると、「うーん」と真那は難しい表情を浮かべながら目を閉じる。
「何でだろ……私にもわかんないや」
再び目を開けた真那が、お手上げと言わんばかりに両手を広げた。そんな彼女の姿に、「何でだよ」と俺は思わず突っ込む。
「まあよくわかんないけど、さすが私の妹ってことだよね!」
「どんなまとめ方だよ、それ」
「だってこればっかりは私にもわかんないもん。それに、動いてるのは椿からもらった腕時計だけでしょ?」
そう言って彼女は壁に掛けている時計を指差す。椿からもらった腕時計が一秒ずつ時を進めていく中で、その時計は電池が切れたようにピタリと止まっていた。
「ほらあれも」と言って今度は真那が窓の向こうを指差す。その指先が指し示す場所を辿ってみると、部屋の時計と同じく、公園にある時計塔も時を止めていた。
ただでさえ不思議な世界の中で、さらに起こった不思議な出来事。
時間が止まったこの世界を作り出した真那にわからないのであれば、椿からもらった腕時計だけがどうして動くのかなんて俺にわかるはずがない。ただ……
「じゃあこれで真那と会ってる時も何分経ったかわかるわけだな」
「みたいだね」
俺の言葉に真那がニコリと微笑む。そして彼女はまた腕時計を覗き込んだ。
「ちゃーんと椿に感謝しないとダメだよ」
「わかってるって……ってかなんで真那がそんなに偉そうなんだよ」
「そりゃだって、私は椿のお姉ちゃんだもん」
そう言って、何故かえっへんと胸を逸らす真那。俺はそんな彼女の姿に呆れながらも、思わずぷっと吹き出してしまう。
すると「そこ笑うとこ?」ときゅっと眉を寄せた真那がわざとらしく怒った口調で言う。けれど彼女はすぐにいつもの笑顔を見せると、静かにその瞼を閉じる。
「あの子、ほんとは寂しがり屋のくせに私に似て頑固なところもあるから……。だから、歩がしっかり守ってあげてね」