次に何をしでかすかわからない真那の行動を、俺は看守のような目で見張っていた。すると真那は座布団の上に座って急に静かになったかと思うと、わざとらしくコホンと一つ咳払いをする。そして意味深な視線を俺に送ってきた。

「あのさ……男の子の部屋って、やっぱり『いけない本』とか置いてるの?」

「は?」
 
 突然真那の口から飛び出した質問に、「何バカなこと言ってたんだよ」と俺は思わず目を丸くした。けれどどうやら相手は本気で気になっているようで、今度は前のめりになって聞いてくる。

「だって歩のおじちゃんが昔言ってたよ。思春期の男はそうやって成長していくもんだって」

「…………」
 
 うちの親父……真那に何教えてんだよ。
 
 俺は絶句したまま、心の中で父親のことを恨んだ。が、とりあえずここは動揺してはいけない。

「あ、あるわけないだろ……」
 
 平静を装って口を開いたつもりだったが、思いっきり噛んでしまった。しかも真那から視線を逸らすつもりが、無意識にクローゼットの方を見てしまい、案の定彼女の唇がニヤリと怪しい弧を描いた。

「なるほど……あそこに隠してるのか」

「ば、バカ違うって!」

 俺は慌てて真那の顔を睨んだ。しかし相手は相変わらず肩を震わせ続ける。

「残念、オルゴールが鳴ってる間は開けれないからなぁ」
 
 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、俺のことをじーっと見つめてくる真那。そんな彼女に、「あのな……」と俺は呆れてため息をつく。
 貴重な10分間……のはずか、俺たちは一体何の会話をしているんだ。
 俺はそんなことを思いながらも、心の隅ではオルゴールを鳴らしている間は真那にクローゼットを開けられる心配がないことにほっとしていた。

「べつに焦らなくても、そんなことで歩のこと嫌いになったりしないから大丈夫だよ」

「…………」

 そう言ってケラケラと笑う真那を、俺は黙ったまま睨み続ける。

「そういう真那の方こそ、部屋に危険なものとかほんとは隠してるんじゃないか?」

「ぶー残念でした。私の部屋はね、生活に必要なものしか置いてないから綺麗なの。まさにシンプルイズベスト!」
 
 使い古された名言を力強く言い切る真那に、歩は「あー」と間の抜けた声を漏らす。

「じゃあやっぱりあのデカイぬいぐるみは寝る時の必需品ってことだな」

「……なんで知ってるの?」
 
 仕返しのつもりで口にした言葉に、真那の表情が急に真顔になった。

「もしかして……見たの?」

 そう言いながら、みるみるうちに顔を赤くしていく真那。何やらヤバい雰囲気だなと思いつつも、俺はコクンと小さく頷く。すると突然真那が立ち上がったかと思うと、まるで犯罪者でも見るかのような目つきで俺を睨みつけてきた。

「サイテーっ! 女の子の部屋に勝手に入るなんてほんっとありえない! このスケベ! 変態!!」

「いやちょっと覗いただけだって!」
 
 俺は慌てて口を開くと、咄嗟にそんな嘘をつく。本当は堂々と部屋に入ったどころか、何なら真那の手帳まで勝手に拝借してしまっている。……が、今この状況でそんなことを口にすれば、間違いなく死刑判決を食らうだろう。
 ガルルル、とまるで野獣のように唸っている真那を前にして、俺はそんなことを思った。

「あー……こんなことになるなら、ちゃんと部屋の掃除をしておくべきだった」

 今度はそう言って、大きく肩を落としてため息をつく真那。

「べつにぬいぐるみぐらい恥ずかしいことじゃないだろ。椿も持ってたぞ」

「まあそうだけど……、誰に見られるかで変わってくるじゃん」

「何がだよ?」

「……」
 
 会話の意図がわからず俺が尋ねた言葉に、真那はちらりとこちらを見るだけだった。そして今度は「別に」と拗ねたように唇を尖らせるとまた目を逸らす。