「うおッ!」

 ビクリと大きく身体を震わせてしまった俺は、思わず叫び声も漏らしてしまった。すると右肩の後ろからひょこっと真那が顔を出してきた。吐息まで聞こえてきそうなそのあまりの近さに、再び心臓が飛び跳ねる。

「どう、ビックリした?」
 
 至近距離で無邪気な瞳を向けてくる真那から逃げるように、俺は口を開く前に慌てて彼女から離れた。そのせいで、ドン! と勢いよく背中をベッドサイドにぶつけてしまう。

「いってー……」

 背中を負傷して痛がっている俺の前で、無慈悲にも真那はけらけらと愉快な声で笑っていた。

「作戦大成功! まさか歩がそんなにビックリするなんて思わなかったよ」
 
 彼女はそう言うと、今度はお腹を押さえながら肩を震わている。その様子を目を細めて睨みながら、俺は呆れた口調で口を開く。

「お前……一体どんな登場の仕方してくるんだよ……」

「普通に出てきたよ。そしたら歩が目を瞑ってたから、ちょっとだけイタズラしようと思っただけですー」

 相変わらず感情表現豊かな真那は、堂々とあっかんべーを繰り出してくるではないか。そんな彼女の姿に、俺はここ一週間感じていた不安が何だかバカらしく思えてきた。

「こっちはそれどころじゃなかったのに……」
 
 ぼそりと呟いた自分の言葉は届いていないのか、真那は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。そして、その大きな瞳をこちらに向けてきたかと思うと、パチクリとまばたきを繰り返した。

「もしかして……ここって、歩の部屋?」
 
 コトっと首を傾げる彼女に合わせて、左右に括っている髪がふわりと揺れた。彼女の問いかけに、「そうだけど……」と俺はぎこちない口調で答える。何度も最終チェックは行ったが、いざ本当に真那がこの場所に現れるとやっぱり落ち着かない。
 何だか、自分のプライベートのど真ん中にいきなり爆弾を落とされた気分だ。
 呆然と座り込んだままの俺の前で、「これが歩の部屋なのかー」と嬉しそうに呟く真那は、突然立ち上がると机へと向かう。

「おい……何やってんだよ」
 
 うーん、と唸るような声を出して机の引き出しを開けようとする彼女に向かって俺は言った。

「くーッ、やっぱダメか!」

「なにが『やっぱダメか』だ。いきなり人の部屋に来て引き出し開けようとする奴がいるかよ」

「ここにいるじゃん」

「いやそういう意味じゃなくて……」

 俺が思わず呆れた口調で突っ込むと、真那は何故か楽しそうにクスリと笑う。

「だってせっかく歩の部屋に来れたんだから、これはしっかりチェックしておかないと。それに私、男の子の部屋に来たのって初めてだから何だかドキドキするよね!」
 
 そう言って真那は目を輝かせながら、再び部屋の中をぐるりと見渡す。彼女が手帳に書いていた通り、『部屋でまったり』というコースを選んだつもりだったが、残念ながら俺は全然まったりできない。