椿のおかげで着ていた服も元どおりになり、俺は玄関で靴を履いていた。椿がいつの間にかスニーカーの中に新聞紙を入れてくれていたおかげで、こちらもだいぶ乾いたようだ。
「服、ありがと。椿のおかげで助かったよ」
「どういたしまいして。私も歩のおかげで制服のデザイン決まったから助かったよ」
そう言って椿はニコッと微笑む。その笑顔には先ほど感じた寂しさはもう無くなっていた。
「あのデザインだったら和輝も他の男子も賛成するだろ」
「それなら良かった」
俺の言葉に椿がほっとするように息を吐き出す。それを見て俺はわずかに口端を上げると、「それじゃあ」と言って玄関の扉へと手を伸ばした。と、その時。「ちょっと待って」と不意に背中から椿の声が聞こえてくる。
「歩。その、ちょっと遅くなっちゃたけど……これ」
振り向くと何故か恥ずかしそうにもじもじとした椿が、俺に向かって両手を伸ばしていた。そしてその手には、小さな紙袋が握られている。
「何これ?」
「……誕生日プレゼント」
「え?」と驚いた俺が彼女の顔を見ると、その頬がさらに朱色に染まる。
「その……お姉ちゃんからもらうより、嬉しくないかもだけど……」
「何言ってんだよ」
恥ずかしさを誤魔化すつもりで少しつっけんどんな態度で答えてしまった。そしてわざとらしく咳払いをした後、「……ありがと」と小声で呟くと椿から紙袋を受け取った。中を覗き込むと、青いリボンが丁寧に巻かれたギフトボックスが入っているのが見える。
「開けていいのか?」
「……うん」
俺が尋ねると、椿は顔を伏せたまたこくりと頷く。俺はそんな彼女を見た後、紙袋の中に右手を入れてそっとギフトボックスを取り出す。そして慎重な手つきでリボンをゆっくり解くと、箱の蓋を開けた。
「これって……」
箱の中から姿を現したのは、腕時計だった。黒一色にデザインされたその腕時計には、高校生の間でも人気があるブランドロゴが入っている。
「ほら歩、前に腕時計ほしいって言ってたからさ……。お姉ちゃんのことでも色々と力になってもらったし、そのお礼も兼ねてっていうか……」
慣れない雰囲気に緊張しているせいか、椿がぎこちない口調で話す。俺はというと、同じく慣れない展開に思わず頭をかいた。
視線の先にあるまだ時を刻み始めていないその腕時計は、オルゴールが鳴っている時のあの世界と、何だか似ているような気がした。
「服、ありがと。椿のおかげで助かったよ」
「どういたしまいして。私も歩のおかげで制服のデザイン決まったから助かったよ」
そう言って椿はニコッと微笑む。その笑顔には先ほど感じた寂しさはもう無くなっていた。
「あのデザインだったら和輝も他の男子も賛成するだろ」
「それなら良かった」
俺の言葉に椿がほっとするように息を吐き出す。それを見て俺はわずかに口端を上げると、「それじゃあ」と言って玄関の扉へと手を伸ばした。と、その時。「ちょっと待って」と不意に背中から椿の声が聞こえてくる。
「歩。その、ちょっと遅くなっちゃたけど……これ」
振り向くと何故か恥ずかしそうにもじもじとした椿が、俺に向かって両手を伸ばしていた。そしてその手には、小さな紙袋が握られている。
「何これ?」
「……誕生日プレゼント」
「え?」と驚いた俺が彼女の顔を見ると、その頬がさらに朱色に染まる。
「その……お姉ちゃんからもらうより、嬉しくないかもだけど……」
「何言ってんだよ」
恥ずかしさを誤魔化すつもりで少しつっけんどんな態度で答えてしまった。そしてわざとらしく咳払いをした後、「……ありがと」と小声で呟くと椿から紙袋を受け取った。中を覗き込むと、青いリボンが丁寧に巻かれたギフトボックスが入っているのが見える。
「開けていいのか?」
「……うん」
俺が尋ねると、椿は顔を伏せたまたこくりと頷く。俺はそんな彼女を見た後、紙袋の中に右手を入れてそっとギフトボックスを取り出す。そして慎重な手つきでリボンをゆっくり解くと、箱の蓋を開けた。
「これって……」
箱の中から姿を現したのは、腕時計だった。黒一色にデザインされたその腕時計には、高校生の間でも人気があるブランドロゴが入っている。
「ほら歩、前に腕時計ほしいって言ってたからさ……。お姉ちゃんのことでも色々と力になってもらったし、そのお礼も兼ねてっていうか……」
慣れない雰囲気に緊張しているせいか、椿がぎこちない口調で話す。俺はというと、同じく慣れない展開に思わず頭をかいた。
視線の先にあるまだ時を刻み始めていないその腕時計は、オルゴールが鳴っている時のあの世界と、何だか似ているような気がした。