呆れた表情を浮かべている俺を見て椿はクスリと笑うと、座っていたベッドから立ち上がり机へと向かう。そして何枚かの紙を手に持って今度は俺の前へと腰を下ろした。
「これがカフェの制服のデザインなんだけど……どれがいいかな?」
少し恥ずかしそうにしながら椿は手に持っていた紙をテーブルの上へと置いた。俺は差し出されたその紙を受け取ると、そこに描かれている制服のデザインを見て思わず声を漏らす。
「マジかよ、すげえなこれ」
渡された紙に描かれていたのは、もはや高校の文化祭の出し物ではなく、実際のカフェでも通用するんじゃないかと思うぐらいのクオリティの高いデザイン画だった。
「ネットとか雑誌とか参考にしながら色々と描いてみたの。女子が着る制服のデザインは決まったんだけど、男子のはどれがいいかなって思って……」
少し頬を赤くした椿がチラチラとこちらの様子を伺いながら言った。
俺は手元にあるデザイン画を見比べてみる。素人目線でもセンスが良いとわかるデザインは、どれを選んでも問題ないだろう。しばらくの間黙って見比べていた俺は、白と黒を基調にしたスタイリッシュなデザイン画を指差した。
「これとかいいんじゃないか? かっこいいし、それに作りやすそう」
「どれ?」と言って椿は俺の隣にやってくると一緒に座って覗き込む。
「なるほど、このデザインね。あんまり色を使えなくて考えるのがすごく大変だったやつだ」
そう言ってこちらを向いた椿とバチっと間近で目が合った時、何故か彼女が急に顔を赤らめた。そして慌てた様子で目を伏せる。
「どうした?」と不思議に思った俺が尋ねると、椿は恥ずかしそうに少し俯いたまま「何もない」とぼそりと呟く。そんな彼女の様子に俺がますます首を傾げると、「あ、そうだ」と椿は取ってつけたように声を発して立ち上がった。
「さっき洗濯しようとした時にズボンのポケットに入ってたんだけど、これ歩の?」
椿はそう言うと机の上に置いていたものを手に取り、それを俺の方へと差し出してきた。見るとその手のひらには、真那からもらったオルゴールの姿が。
「やっべ!」と思わず声を漏らした俺は、慌てて立ち上がると椿からオルゴールを受け取り、壊れていないか中身を確かめようとした。が、
「ダメだ、どっちにしろ開かないのか……」
一週間は開けることができないことを思い出し、俺は思わず大きなため息をついた。そんな自分の様子を見て、今度は椿が不思議そうに首を傾げる。
「そんなに大切なものなの?」
「ああ、真那が誕生日にくれたプレゼントなんだよ……」
会話の流れで素直に答えてしまった俺は、「あッ」と思わず間抜けな声を漏らすと椿の顔を見た。すると彼女は「ふーん」と何やら疑り深い声を漏らすと目を細める。
「お姉ちゃんからいつもらったプレゼントなの?」
「あ、えーと。これは、いつだっけな……」
つい最近ガレージで見つけました、なんて言うこともできず、唇だけをパクパクとしていると、小さく息を吐き出した椿が再び唇を開いた。
「いつも持ち歩いてるんだね」
「ま、まあな……ちょっとしたお守りみたいなもんだよ」
「そうなんだ……」
ぼそりと呟かれた椿の言葉は、その後に妙な沈黙を生み出した。何か会話を続けなければと俺が無理やり口を開こうとした時、すっと息を吸った椿が思い詰めるような表情で唇を動かす。
「前からずっと聞きたかったんだけど……」
何故かいつもと様子が違う椿の雰囲気に、俺は無意識に身構えるとゴクリと唾を飲み込む。
「歩はその……お姉ちゃんのこと……」
糸がピンと張ったような張り詰めた空気の中、慎重に言葉を吟味するように下唇をきゅっと噛む椿。その唇が再びゆっくりと開いた時、ちょうど真下から何かの振動音と共にピーという機械音が聞こえてきた。
「あッ、歩の服が乾いたみたい」
まるで何かを隠すように不自然なほどパっといつもの表情に戻った椿は、そう言って部屋を出て行こうとする。
「おい、話しの続きは?」
ドアノブを握りしめる椿の背中に向かって俺は尋ねた。すると足を止めた椿がこちらを振り返る。
「ごめん、やっぱりいいや」
「……」
俺の顔を見てニコリと笑う椿。けれど何故か、いつもと同じはずの彼女のその笑顔が、今の俺の目には少し寂しそうに映った。
「これがカフェの制服のデザインなんだけど……どれがいいかな?」
少し恥ずかしそうにしながら椿は手に持っていた紙をテーブルの上へと置いた。俺は差し出されたその紙を受け取ると、そこに描かれている制服のデザインを見て思わず声を漏らす。
「マジかよ、すげえなこれ」
渡された紙に描かれていたのは、もはや高校の文化祭の出し物ではなく、実際のカフェでも通用するんじゃないかと思うぐらいのクオリティの高いデザイン画だった。
「ネットとか雑誌とか参考にしながら色々と描いてみたの。女子が着る制服のデザインは決まったんだけど、男子のはどれがいいかなって思って……」
少し頬を赤くした椿がチラチラとこちらの様子を伺いながら言った。
俺は手元にあるデザイン画を見比べてみる。素人目線でもセンスが良いとわかるデザインは、どれを選んでも問題ないだろう。しばらくの間黙って見比べていた俺は、白と黒を基調にしたスタイリッシュなデザイン画を指差した。
「これとかいいんじゃないか? かっこいいし、それに作りやすそう」
「どれ?」と言って椿は俺の隣にやってくると一緒に座って覗き込む。
「なるほど、このデザインね。あんまり色を使えなくて考えるのがすごく大変だったやつだ」
そう言ってこちらを向いた椿とバチっと間近で目が合った時、何故か彼女が急に顔を赤らめた。そして慌てた様子で目を伏せる。
「どうした?」と不思議に思った俺が尋ねると、椿は恥ずかしそうに少し俯いたまま「何もない」とぼそりと呟く。そんな彼女の様子に俺がますます首を傾げると、「あ、そうだ」と椿は取ってつけたように声を発して立ち上がった。
「さっき洗濯しようとした時にズボンのポケットに入ってたんだけど、これ歩の?」
椿はそう言うと机の上に置いていたものを手に取り、それを俺の方へと差し出してきた。見るとその手のひらには、真那からもらったオルゴールの姿が。
「やっべ!」と思わず声を漏らした俺は、慌てて立ち上がると椿からオルゴールを受け取り、壊れていないか中身を確かめようとした。が、
「ダメだ、どっちにしろ開かないのか……」
一週間は開けることができないことを思い出し、俺は思わず大きなため息をついた。そんな自分の様子を見て、今度は椿が不思議そうに首を傾げる。
「そんなに大切なものなの?」
「ああ、真那が誕生日にくれたプレゼントなんだよ……」
会話の流れで素直に答えてしまった俺は、「あッ」と思わず間抜けな声を漏らすと椿の顔を見た。すると彼女は「ふーん」と何やら疑り深い声を漏らすと目を細める。
「お姉ちゃんからいつもらったプレゼントなの?」
「あ、えーと。これは、いつだっけな……」
つい最近ガレージで見つけました、なんて言うこともできず、唇だけをパクパクとしていると、小さく息を吐き出した椿が再び唇を開いた。
「いつも持ち歩いてるんだね」
「ま、まあな……ちょっとしたお守りみたいなもんだよ」
「そうなんだ……」
ぼそりと呟かれた椿の言葉は、その後に妙な沈黙を生み出した。何か会話を続けなければと俺が無理やり口を開こうとした時、すっと息を吸った椿が思い詰めるような表情で唇を動かす。
「前からずっと聞きたかったんだけど……」
何故かいつもと様子が違う椿の雰囲気に、俺は無意識に身構えるとゴクリと唾を飲み込む。
「歩はその……お姉ちゃんのこと……」
糸がピンと張ったような張り詰めた空気の中、慎重に言葉を吟味するように下唇をきゅっと噛む椿。その唇が再びゆっくりと開いた時、ちょうど真下から何かの振動音と共にピーという機械音が聞こえてきた。
「あッ、歩の服が乾いたみたい」
まるで何かを隠すように不自然なほどパっといつもの表情に戻った椿は、そう言って部屋を出て行こうとする。
「おい、話しの続きは?」
ドアノブを握りしめる椿の背中に向かって俺は尋ねた。すると足を止めた椿がこちらを振り返る。
「ごめん、やっぱりいいや」
「……」
俺の顔を見てニコリと笑う椿。けれど何故か、いつもと同じはずの彼女のその笑顔が、今の俺の目には少し寂しそうに映った。