椿の部屋は二階にあるようで俺たちはリビングを出るとすぐ目の前にある階段を上がっていく。そして二階の廊下にたどり着いた時、ふと手前にあるドアが目に止まった。
「あそこはお姉ちゃんの部屋だよ」
「え?」
椿の言葉に、胸の奥でドクンと心臓が強く脈打った。真那とはついさっき会ったばかりだ。けれどこうやって彼女の部屋の前に立つと、それはもう遠い昔の出来事のような気がしてきて現実感がない。それに、彼女はもうこの世にはいない存在なのだ。
そんなことを黙ったまま考えていると、椿が真那の部屋の方へと近づいていく。そして扉の取手をそっと握りしめた。
「入ってみる?」
「……いいのかよ?」
椿の言葉に、俺は一瞬目を細めた。すると彼女は「うん」と小さく頷いた後、扉の取手を静かに回してゆっくりと扉を開く。
「お姉ちゃんが使ってた頃のまま残してるの」
そう言って椿は真っ暗だった部屋の電気をつけた。俺はゴクリと唾を飲み込むと、椿に案内されるままに部屋の中へと足を踏み入れる。
「……」
真那の部屋は、思ったよりも整然としていた。
あれだけ発明一筋でガレージにこもっていたぐらいなので、自分の部屋もそんな感じなのかと思いきや、そうではなかった。
六畳ほどの空間にはベッドや机、本棚などが置かれているだけで、ガレージにあるような危なっかしい工具や機材などは見当たらない。それに机の上も、金属の小さなパーツはいくつかあるものの、特に変わったものなどは置かれてはいなかった。
「ここが……真那の部屋」
俺はそんな言葉を無意識に呟きながら辺りを見回す。たしかにオルゴールを鳴らさなくても、この場所にはかつて真那がいたであろう気配を強く感じた。彼女はここで生活していたのだ。自分と同じように机で勉強したり、そして、ベッドで眠ったりして。
そんなことを思っていた時、ふいに鼻腔をかすめた真那の懐かしい匂いに思わず胸の奥が強く締め付けられる。俺はそんな感情を誤魔化すようにすっと小さく息を吸うと口を開いた。
「……なんか、意外だな」
俺はそんな言葉を口にしながら、ベッドの上に置かれているキリンとパンダのぬいぐるみに視線を向ける。その大きすぎるサイズと彼女らしくないという理由から、そのぬいぐるみだけが部屋の中で抜群の存在感を放っていた。
「真那のやつ……ぬいぐるみとか好きだったのか?」
俺が意外そうな表情を浮かべて尋ねると、椿が小さく笑った。
「そのぬいぐるみ、お姉ちゃんが小さかった時におじいちゃんが買ってくれたの。私の部屋にも違うのがあるんだけど、お姉ちゃんそれなかったら眠れなかったみたい。ずっと抱き枕にしてたんだって」
そう言って椿は過去を懐かしむように目を細めた。
自分が知っている真那の姿とはあまりにもギャップがある妹からの暴露話しに、なんだが胸がむず痒くなった。と、その時。真那の机の上に置いてあったものにふと目が止まる。
「これって……」
見覚えのある赤い表紙、それはいつか真那が俺に見せてくれたあの小さな手帳だった。
たしかこの手帳に真那がしてみたいことが書いてあったような……
俺はそんなことを思い出しながら真那の手帳をそっと手に取った。
「そろそろ行こっか」
ちょうど手帳を開きかけた時、背中越しから椿の声が聞こえてきた。俺は「ああ……」とぎこちなく返事を返すと、反射的に手帳をズボンのポケットへと突っ込んでしまう。
そのことに気付いて「あ」と声を漏らしたが、椿が部屋の電気を消してしまったので、俺は結局、そのまま真那の部屋を出てしまった。
「私の部屋はこっちだよ」
そう言って椿に案内されたのは真那の部屋から斜め前にある扉だった。彼女に続いて部屋の中に入ろうとすると、「ちょっと待って」と何故か止められてしまい、そして扉も閉められてしまった。と、思いきやまたすぐに扉は開き、ひょこっと顔を出した椿が「入っていいよ」と少し恥ずかしそうに呟く。
「あそこはお姉ちゃんの部屋だよ」
「え?」
椿の言葉に、胸の奥でドクンと心臓が強く脈打った。真那とはついさっき会ったばかりだ。けれどこうやって彼女の部屋の前に立つと、それはもう遠い昔の出来事のような気がしてきて現実感がない。それに、彼女はもうこの世にはいない存在なのだ。
そんなことを黙ったまま考えていると、椿が真那の部屋の方へと近づいていく。そして扉の取手をそっと握りしめた。
「入ってみる?」
「……いいのかよ?」
椿の言葉に、俺は一瞬目を細めた。すると彼女は「うん」と小さく頷いた後、扉の取手を静かに回してゆっくりと扉を開く。
「お姉ちゃんが使ってた頃のまま残してるの」
そう言って椿は真っ暗だった部屋の電気をつけた。俺はゴクリと唾を飲み込むと、椿に案内されるままに部屋の中へと足を踏み入れる。
「……」
真那の部屋は、思ったよりも整然としていた。
あれだけ発明一筋でガレージにこもっていたぐらいなので、自分の部屋もそんな感じなのかと思いきや、そうではなかった。
六畳ほどの空間にはベッドや机、本棚などが置かれているだけで、ガレージにあるような危なっかしい工具や機材などは見当たらない。それに机の上も、金属の小さなパーツはいくつかあるものの、特に変わったものなどは置かれてはいなかった。
「ここが……真那の部屋」
俺はそんな言葉を無意識に呟きながら辺りを見回す。たしかにオルゴールを鳴らさなくても、この場所にはかつて真那がいたであろう気配を強く感じた。彼女はここで生活していたのだ。自分と同じように机で勉強したり、そして、ベッドで眠ったりして。
そんなことを思っていた時、ふいに鼻腔をかすめた真那の懐かしい匂いに思わず胸の奥が強く締め付けられる。俺はそんな感情を誤魔化すようにすっと小さく息を吸うと口を開いた。
「……なんか、意外だな」
俺はそんな言葉を口にしながら、ベッドの上に置かれているキリンとパンダのぬいぐるみに視線を向ける。その大きすぎるサイズと彼女らしくないという理由から、そのぬいぐるみだけが部屋の中で抜群の存在感を放っていた。
「真那のやつ……ぬいぐるみとか好きだったのか?」
俺が意外そうな表情を浮かべて尋ねると、椿が小さく笑った。
「そのぬいぐるみ、お姉ちゃんが小さかった時におじいちゃんが買ってくれたの。私の部屋にも違うのがあるんだけど、お姉ちゃんそれなかったら眠れなかったみたい。ずっと抱き枕にしてたんだって」
そう言って椿は過去を懐かしむように目を細めた。
自分が知っている真那の姿とはあまりにもギャップがある妹からの暴露話しに、なんだが胸がむず痒くなった。と、その時。真那の机の上に置いてあったものにふと目が止まる。
「これって……」
見覚えのある赤い表紙、それはいつか真那が俺に見せてくれたあの小さな手帳だった。
たしかこの手帳に真那がしてみたいことが書いてあったような……
俺はそんなことを思い出しながら真那の手帳をそっと手に取った。
「そろそろ行こっか」
ちょうど手帳を開きかけた時、背中越しから椿の声が聞こえてきた。俺は「ああ……」とぎこちなく返事を返すと、反射的に手帳をズボンのポケットへと突っ込んでしまう。
そのことに気付いて「あ」と声を漏らしたが、椿が部屋の電気を消してしまったので、俺は結局、そのまま真那の部屋を出てしまった。
「私の部屋はこっちだよ」
そう言って椿に案内されたのは真那の部屋から斜め前にある扉だった。彼女に続いて部屋の中に入ろうとすると、「ちょっと待って」と何故か止められてしまい、そして扉も閉められてしまった。と、思いきやまたすぐに扉は開き、ひょこっと顔を出した椿が「入っていいよ」と少し恥ずかしそうに呟く。