「見て歩！ 波が掴めるよ！」
　
　まるでサーファーのような言葉を発した真那だったが、その右手は本当に波を掴んでいた。

「いやーこんなこと出来るなんて、やっぱり私は天才発明家だな！」
　
　満足そうに自画自賛している彼女の言葉を聞いながら、俺も同じようにその場にしゃがみ込むと、右手をそっと波の方へと近づけてみた。すると指先が触れた小さな波はまるで氷のように固まっていて、どれだけ力強く押しても自分の手が水の中を通ることはない。

「ほんとだ、固まってる……」
　
　驚きのあまり俺がそんな言葉をぼそりと呟くと、「でしょ！」と何故か真那が得意げに胸を逸らした。

「掴めるだけじゃなくて、海の上を歩くことだってできるんだから」

「海の上を歩くって……って、おい！」

　俺が喋り切る前に、真那は海に向かって勢いよくジャンプした。「あッ」と思わず顔をしかめた俺だったが、彼女の足は自然の摂理に反して水面の上へと着地する。本来であれば立つことが不可能な場所に真那はその身を預け、嬉しそうに笑った。

「ほら、すごいでしょ！」
　
　真那はそう言うと俺の前で踊るようにくるくると回ってみせた。陽の光がきらびやかに輝いている水面の上で無邪気に笑う彼女の姿は、まるでおとぎ話の世界のような神秘的な光景だった。俺はその姿に、不覚にも見惚れてしまう。

「歩も早く来なよ！　面白いよ」

「お、おう」

　ぎこちない声で返事をした俺は、恐る恐る右足を波の方へと向けると海の上へと一歩踏み出す。するとコンっという音と共に、たしかに靴底からは地面を踏む時と同じような感覚が伝わってきた。
　何だかアイススケート場に足を下ろしたような感じがしたが、氷ではないのでどうやら滑らないようだ。

「すげえ！　ほんとに海の上に立ってる！」
　
　両足を海面につけた俺は、思わず子供のような無邪気な声を上げてしまった。こんな経験、この世の中で一体誰ができるだろう。まるで自分たちが映画の世界にやってきたみたいだ。

「私がいなかったらこんな体験できなかったんたがら、感謝してね」