今度は俺が眉間に皺を寄せると、クスリと笑った真那が明るい声で言う。

「このオルゴールを鳴らせるのは一週間に一度だけ。だから何度も鳴らすことはできないの」

「は? じゃあ今鳴らしたってことは来週まで会えないのかよ?」

「うん、そうことになるね」
 
 なるね、っておい……。
 
 あまりに軽い返事に、俺は思わずため息をついてしまう。てっきりいつでも会えるのかと思いきや、どうやらそんな都合の良いようにはいかないようだ。
 俺は残された時間を確認しようと公園にある時計塔を見上げた。が、もちろん時計も止まっているので真那と一緒にいることができる時間が後何分残されているのかわからない。

「なあ、今何分ぐらい経ったんだ?」

「うーん、たぶん5分ぐらいじゃないかなぁ」
 
 当てになるのかならないのか、真那がきゅっと眉根を寄せて答えた。

「たぶんって……。だいたいなんで週に一度だけなんだよ。それに10分だけしか会えないとか短すぎるだろ」

「なッ! これでもすっごく頑張って作ったんだからね! オルゴールを10分も鳴らせるようにするのめちゃくちゃ大変だったんだから。それに、何度も何度も会ってると、初恋のありがたさも忘れるでしょ!」

 そう言って不満そうに目を細める真那だったが、「あッ」と突然声を漏らしたかと思うと、今度は何故かニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

「さては歩……、私に会いたくて会いたくて我慢できないってことだな?」

「な、バカなこと言うなよ! 違うって! 俺はただ……」
 
 急に不意打ちを食らってしまった俺は、うまく言葉をまとめることができずにただ唇をパクパクと動かす。
 するとそんな俺を見て真那は相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、「ふーん」と声を漏らしていた。

「……」
 
 本当は、こうやって真那と再び出会えたことだけでも奇跡だ。
 たとえそれが週に一度だったとしても、10分間というほんの僅かな時間だったとしても、もう会えないと思っていた自分の大切な人に出会えるなんて、まるで夢か映画のような話し。
 
 それを本当に実現してしまうなんて、やっぱり真那は……
 
 いまだ心が落ち着かず、指先が微かに震えているのを感じながら黙ってそんなことを考えていると、目の前にいる真那がふっと優しい笑みを浮かべた。そしてジャングルジムまで近づくと、もたれかかって辺りをぐるりと見渡す。

「懐かしいなーこの光景。よく歩と一緒にこの公園に来てたもんね」
 
 彼女は嬉しそうな声でそう言った後、今度は星でも探そうとするかのように空を見上げる。 
 俺も同じようにその視線を辿っていくと、はるか上空では飛行機がランプを照らしたまま止まっていた。