次の日、菫さんの家に向かった。
 約一年分だから、バックは大量の写真でパンパンだった。それだけ、彼女に夢中だったんだ。
 合掌をしてから、仏壇の前に写真をお供えしてた。
 そこには、旅行中に約束していたものも含まれていた。
 自分の寝顔を撮ってほしいと、菫さんにはお願いされていた。
 最初はどうしてこんなことを頼んだのかさっぱりだったけど、今ならなんとなくだけど、分かる気もした。
 おそらく、写真を撮ることをやめてほしくなかったんだと思う。
 写真を撮っているかどうか、会うたびに聞いてきたから、間違ってはいないはず。
 もしかしたら、他にも意味もあるのかもしれない。
 でもそれは、追々気づくことができれば良いのかなって、思っていた。
 顔を上げて、菫さんの花開くような微笑みに目を据える。
 これも、僕が撮った写真だった。
 となりには、僕たちのツーショットの写真を飾らせてもらった。
 それと菫さん、蓮、僕が映った写真。
 こっそり、僕が撮っておいた写真だった。
 それと、もう一つのお願いも叶えられそうです、菫さん。
 僕はスマホを取り出して、待ち受け画面を菫さんに見せる。
 仏壇に飾ってあるものと、いっしょの写真。
 それにバックにも同じものが入っていて、写真もよぶんに刷っておいて家にもたくさんある。
 これでデータが飛んだとしても、菫さんのことを忘れることはない。
 もしかしたら僕はこれまで、彼女のために写真を撮り続けてきたのかもしれない。
 こんなことを思うなんて、都合が良すぎるかな。
 でもそう思ったほうが、これからも良い写真を撮っていけるような気がした。
 さっそく、僕は誰もいない廊下を撮った。
 菫さんなら、どんなふうにこの景色を色づかせるだろうか。
 そんなふうに、彼女の笑顔を思い浮かべながら考えていると。
 頬を、なにかが伝っていく。
 ぐいっと、急いで拭った。
 毎回、こんなふうに泣いてしまうんだろうか。
 でもそれも、良い気がしてきた。
 それだけ、彼女のことが好きだという、証しだと思えば。
 外に出ると、さんさんと日差しが照りつけていて、じわりと汗が出るような蒸し暑い風が肌にぶつかる。
 ちらほら、蝉時雨も聞こえてくる。 
 もうそろそろ、梅雨が終わりを迎えて、夏が来る。
 菫の花が、風に吹かれて散ってしまう。
 それでも、僕の心の中では、とこ花のように。
 一凛の花として。
 菫さんは、咲き続けいく。