こんなふうに店長は気さくで、話すのが苦手な僕にも気を使ってくれる。
 初めて来たときもそうで、今だって変わらない。
 正直本屋で働くのは、想像していたよりもきつかった。本を運ぶのは重労働だし、物音を立てないように神経をすり減らさなきゃいけないし。店長がいたからこそ、ここでバイトを続けられたと言っても過言ではなかった。
 そろそろ時間も遅いから、帰るための準備をしていると、店長はまた「そういえば」と言った。店長が話し始めるときは、たいていそんな感じだ。
「やっぱ、嶋野くんはプロのカメラマンになりたかったりするの?」
 首を傾げながら聞いてきて、僕は少し肩を強張らせてしまいながらも、笑顔で首を左右に振った。
「いえ、さすがにそこまでは」
「そっか。まあ、ほとんどの人がそうだよね」
 僕は挨拶をしてバイト先を出ると、まだ雨は降っていなかった。
 これなら折り畳み傘の出番はなさそう。一見、無駄に思えるけど、高い一眼レフカメラを守るためなら、僕にとっては大切なことだった。
 僕がバイトを始めたのは、写真部に入った高校から。
 もっと高性能な一眼レフカメラや、その他もろもろのカメラ関係が欲しかったという理由だった。
 といっても、プロのカメラマンになりたいというわけではなく、ただ楽しく写真が取れれば良いだけで、そこまで本気ではない。
 プロになるために写真を撮ったことは、一度もないと思う。
 サッカー部や野球部に入っている人で、絶対にプロになりたいと夢見ている人なんて、ほんの少ししかいないと思う。
 なんなら、一人もいない部のほうが多いはず。
 僕も試しに新人賞に応募したことが一度だけあったけど、かすりもしなかった。
 だから趣味の範囲で最大限できれば、それで良かった。
 夢を見られるのは、本当に手の届くところに夢がある人だけだろうから。