『これを読んでいるということは、私はもう、ここにはいないということなんだろうね。なんだか変な気分だけど、螢くんには必要だと思うから、こうして手紙を認(したた)めたいと思います』

 僕も少し、変な気持ちになっていた。
 手紙越しなのに、まるでとなりで会話しているような、そんな気がするからかもしれない。

『会ったばかりのころはね、素直な良い男の子だなって、螢くんのことを思ってたの。気も利くし、どんな話にもちゃんと耳を傾けてくれるからね、君は。
 螢くんといると、素でいられたの。
 たぶん、心が安らいでいたんじゃないかな』

 僕はつい、頬を掻いてしまう。
 そんなふうに思っていたんだと知ると、なんだか気恥ずかしくなってきた。

『螢くん、きっとこれからモテるんじゃない?笑 
 蓮みたいに顔だけで女性が寄ってくるのなんて、学生の内だけだよ。
 素敵な女性と出会えることを、私は空の上から祈っています』

 僕は首を振っていた。そう言ってくれるのは嬉しいけど、とてもそんなこと想像すらできなかった。
 それに、菫さんより素敵な女性に会えるとは、とても思えない。

『あと、できればなんだけどね。
 写真は、撮り続けてほしいかな。
 私ね、螢くんの写真を見るの、とても楽しみにしてたの。
 プロになる気なんてない、って螢くんは言ってたけど、私はそんなことないんじゃないかなって思ったよ。
 本気じゃなかったとしたら、あんな丁寧に写真撮れないし、次を追い求められないよ。
 がんばって努力して、螢くんの写真が良くなっていくのを見るのが、自分のことみたいにわくわくしてたの。
 がんばってる人って、かっこいいんだなって、思えたの。
 だからね、私も頑張ろうって思えた。
 生きるの、頑張ろうって思えた。
 私は、とても幸せでした。
 だからなんにも、悔いは残っていません。
 思えば、螢くんと出会えたのは、植物病になったおかげでもあるのかもね。
 だったら、ほんのちょびっとくらい、植物病に感謝しなきゃいけないのかもね。
 それと最後に、螢くんにはお願いがあります。
 私のことは、心の片隅にでも置いといてください。
 たまに思い出してくれるだけで、私は十分嬉しいです。
 だから、好きな人ができたら、絶対に私にも報告してね。
 すごく楽しみにしています。
 毎日、大切に過ごしてね。
 ばいばい、螢くん』