でも、夜になっても菫さんは起きなかった。
 こういうふうに起きない日も、たまにあるんだろうか。
 蓮に聞こうと思って、スマホを手に持つ。
 けど、そっと机の上に戻した。
 明日になれば、きっと起きてくるだろう。
 雑炊だって、また作り直せば良いだけだから、なんの問題もない。
 朝になった。
 けっきょく一睡もできなかったけど、不思議と目は冴えていた。
 おそらく、彼女がどんな反応をするか楽しみで、眠れなかったんだと思った。
 また僕は夕方になる前に、雑炊を作った。数をこなしたおかげか、昨日よりも手際もよく、味も整っているような気がした。
 ベッドの側に座って、頭をそっと撫でる。
 僕が料理を作ったって知ったら、彼女はどんな表情をするんだろう。
 やっぱりまず、僕が作ったことを疑うだろうか。
 それとも、満面の笑みではしゃいでくれるだろうか。
 そのときは、絶対に写真に収めよう。
 どんな表情の菫さんも、僕にとってはどれも宝物だ。
 僕は彼女の手を握り、額を当てる。熱を分けるように、しっかりと包み込む。
「早く、目を開けてください」
 それだけを、僕は思い続けた。
 だけど、夜になっても目を覚まさなかった。
 僕は膝に肘をついて項垂れて、眉間にしわを寄せてしまう。つい、歯ぎしりをたててしまう。
 うすうす、感じていた。
 菫さんはもう、僕へ笑いかけてくれないことなんて。
 それでも、諦めない。
 この手を離すことなんて、できるわけなかった。
 まだ彼女は暖かくて、石鹸の匂いがして、どこをどう見ても、ただ眠っているようにしか見えなかった。
 彼女はまだ、ここにいる。