約束を果たして、彼女の家を出る。彼女と出会った、泉場公園に向かった。ベンチに座って、彼女を撮った写真を見返していく。
 どれも笑っている写真ばかりで、写真を撮っていないときだって、彼女はずっと笑っていた。
 けれど眠るとき、たまに泣いてしまうときがある。
 眠るのが、怖いのかな。
 もっと早く会っていれば、彼女は泣かずに済んだんだろうか。
『会うべきときに会えた』と菫さんは言ってくれたけど、どうしてもそんなことを何回だって考えたてしまう。今さら、意味なんてないのに。
 とたんに、雨が降ってきた。周りの音をすべて包んでしまうような、強い雨脚だった。
 梅雨が、もう目前だった。
 そういえば、傘がないことに気づく。菫さんに会いたくて急いでいたせいか、バイト先に忘れて置きっぱなしだった。
 濃い灰色の曇り空を仰ぎ、手だけを差し出す。瞬く間に、びしょびしょに濡れていって、手を引っ込める。濡れている場所に、すうっと指をなぞっていく。
 また、上を見上げた。
 弱まるまで、待つべきなんだろうな。
 けど、僕の足は雨の中へと向かっていた。
 雨の冷たさが、今はなんだか心地良い気がした。
 それに、ふと思った。
 なにもかも洗い流すには、ちょうど良かったのかもしれない。