どんな写真だったか話しているけど、僕はぜんぜん違うことを考えてしまう。ぼんやりと、写真に目を据えていると。
「もし、高校生のときとか、もっと早く会えてたらって、思うときがあるんです」
気づけば、そんなことをぼやいていた。ハッとなって、ゆっくりと彼女のほうを見遣ると、きょとんと目を丸くしていた。僕の指先に触れると、徐に口元を笑わせた。
「高校生のときの螢くんを見ても、今の螢くんとは違うふうに見えていたと思うの。
あのときに出会えたから、今の私たちがあるんだよ」
「そう、ですかね」
首筋を掻きつつ、首を傾げてしまう。菫さんは、子どもみたいに大きく頷いた。
「会うべきときに、私たちは会えたんじゃないかな?」
じっと写真を見つめて、満面の笑みで菫さんは言葉を紡いだ。
それなのに僕は苦く笑ってしまって、とっさにカメラのディスプレイに目を落とす。彼女にこんな顔を見せるわけにはいかないから。
気づけば、菫さんは眠たそうに目を瞬かせていた。僕はゆっくり体を倒してあげて、布団をかけてあげる。
このまま、眠るのかな。
そう思っていたけど、彼女は瞼を閉ざすことなく、じいっと僕のほうに目を据えてきた。
「大学、ちゃんと通ってる?」
「はい、毎日通ってます」
「写真も、撮ってるんだよね?」
「はい、とりあえず」
「うん、なら良かった」
菫さんは頬を緩めて、僕のほうに寝返りを打つ。けど、中々彼女は眠ろうとしなかった。
「寝なくて、良いんですか?」
「うん、もう少しだけ」
菫さんはそう言って、僕の服の裾を引っ張った。
「こっちに、来て?」
でも、目を合わせてはくれなくて、僕は固まってしまった。
こっちに来て、とは少し体を寄せれば良いんだろうか。
ひとまず椅子を近づけてみる。睨むように目を細めてきて、僕は頬を掻いて眉を顰めてしまった。間違っていることは確かなんだけど、いったいどうすれば良いのかは分からない。
そんな僕を見かねたのか、菫さんはふうっと息を吐いて、ぐいっと、僕の腕を力強く引っ張った。
菫さんの体の上に、覆いかぶさってしまった。
なにが起こっているのか、わけが分からなくて、また動けなかった。とにかく急いで退こうとするけど、彼女は腕にめいっぱい力を入れてきて、離してくれなかった。
正直、振りほどけないこともなかった。
でも、彼女が望んでいることだと諦めて、彼女を抱きしめることにした。どこもかしこも柔らかくて、彼女の良い匂いがして、僕よりほんのり温かくて。
ここにいるよ。
そう、伝えてくるみたいだった。
「温かいね、螢くん」と、笑うような声が耳元でした。
「菫さんのほうが、ずっと温かいですよ」
いつまでもそうしていると、寝息が聞こえてきた。彼女はいつの間にか眠っていて、僕はまた椅子に座って、彼女の手をそっと握った。
その手に、つい力が入ってしまった。
菫さんの目じりから、一筋の涙が流れていた。
「もし、高校生のときとか、もっと早く会えてたらって、思うときがあるんです」
気づけば、そんなことをぼやいていた。ハッとなって、ゆっくりと彼女のほうを見遣ると、きょとんと目を丸くしていた。僕の指先に触れると、徐に口元を笑わせた。
「高校生のときの螢くんを見ても、今の螢くんとは違うふうに見えていたと思うの。
あのときに出会えたから、今の私たちがあるんだよ」
「そう、ですかね」
首筋を掻きつつ、首を傾げてしまう。菫さんは、子どもみたいに大きく頷いた。
「会うべきときに、私たちは会えたんじゃないかな?」
じっと写真を見つめて、満面の笑みで菫さんは言葉を紡いだ。
それなのに僕は苦く笑ってしまって、とっさにカメラのディスプレイに目を落とす。彼女にこんな顔を見せるわけにはいかないから。
気づけば、菫さんは眠たそうに目を瞬かせていた。僕はゆっくり体を倒してあげて、布団をかけてあげる。
このまま、眠るのかな。
そう思っていたけど、彼女は瞼を閉ざすことなく、じいっと僕のほうに目を据えてきた。
「大学、ちゃんと通ってる?」
「はい、毎日通ってます」
「写真も、撮ってるんだよね?」
「はい、とりあえず」
「うん、なら良かった」
菫さんは頬を緩めて、僕のほうに寝返りを打つ。けど、中々彼女は眠ろうとしなかった。
「寝なくて、良いんですか?」
「うん、もう少しだけ」
菫さんはそう言って、僕の服の裾を引っ張った。
「こっちに、来て?」
でも、目を合わせてはくれなくて、僕は固まってしまった。
こっちに来て、とは少し体を寄せれば良いんだろうか。
ひとまず椅子を近づけてみる。睨むように目を細めてきて、僕は頬を掻いて眉を顰めてしまった。間違っていることは確かなんだけど、いったいどうすれば良いのかは分からない。
そんな僕を見かねたのか、菫さんはふうっと息を吐いて、ぐいっと、僕の腕を力強く引っ張った。
菫さんの体の上に、覆いかぶさってしまった。
なにが起こっているのか、わけが分からなくて、また動けなかった。とにかく急いで退こうとするけど、彼女は腕にめいっぱい力を入れてきて、離してくれなかった。
正直、振りほどけないこともなかった。
でも、彼女が望んでいることだと諦めて、彼女を抱きしめることにした。どこもかしこも柔らかくて、彼女の良い匂いがして、僕よりほんのり温かくて。
ここにいるよ。
そう、伝えてくるみたいだった。
「温かいね、螢くん」と、笑うような声が耳元でした。
「菫さんのほうが、ずっと温かいですよ」
いつまでもそうしていると、寝息が聞こえてきた。彼女はいつの間にか眠っていて、僕はまた椅子に座って、彼女の手をそっと握った。
その手に、つい力が入ってしまった。
菫さんの目じりから、一筋の涙が流れていた。