去年も着ていた真っ白なワンピースを着ていて、手にはカンカン帽を抱えていた。僕はいつも通り、近くの椅子に座る。机の上にはもう、お菓子とコーヒーが準備されていた。僕はブラックで、菫さんはカフェオレだった。
 それと菫さんは毎回、しっかりとメイクをしている。
「前から思ってたんですけど、メイクするのめちゃくちゃ速いですね」
「まあ、そうだね。ほんとに簡単にしかしてないけど」
「無理しなくても、大丈夫ですよ?」
 そう言ったのは、メイクしなくても、菫さんは絶対にきれいだと思うから。本当に好きな人だったら、みんなそう感じるんじゃないかな。
 彼女の手を握ると、擦るようにして握り返してくれた。
「ううん、良いの。螢くんの前では、少しでもきれいでいたいから」
 首を振ってから上目遣いで見て、菫さんは目を細めて笑わせた。
 僕はつい、頬を掻いてしまった。顔もどことなく痒いし、熱を出したときみたいに火照ってくるし。
 そんなふうに思ってくれることが、男として、素直に嬉しいのかもしれない。
 それから、菫さんとはいろんなことを話した。蓮は意外と真面目に勉強していることや、最近ハマっている曲のことなど、他愛無いこと。
「これね、お母さんの手作りなんだよ?」
 クッキーを食べていると、菫さんは口角を上げて言った。僕はおもわずじっくりと眺めてしまった。どこかのデパートに売っていそうなくらい、きれいな見た目で、加えてとてもおいしかったからだ。
「すごいですね。ちょっと高めのクッキーかと思ってました」
「螢くんは、料理としないの?」
「そうですね、あまりしないです」
 そっか、と菫さんはチョコクッキーを頬張る。僕も取ろうとすると、チョコばっかり減っていることに気づく。
 本当に好きなんだな、チョコ。
 小さく笑み零してしまうと、菫さんは。
「いつか、食べてみたいな」
 そう、零れ落ちるクッキーの破片みたいに小さな声で呟いた。
「考えておきます」
 クッキーを食べながら言うと、菫さんがにっこり笑うのが視界の端に見えた。僕も、つい口角を上げていた。
 いつか、と言っていた。
 それはたぶん、これから先のことを差していて、彼女が前向きである証拠でもあるんだと思う。つまり、今日の菫さんは体の調子が良いということで、僕はひとまず安心していた。