菫さんの家に着くと出迎えてくれたのは、菫さんのお母さんと蓮のお父さん、花(はな)さんと輝(ひかる)さんだった。
 今年の春から、結婚はまだしないけど、四人でいっしょに住むことになったのだと、菫さんから聞いた。
 しかも意外なことに、蓮が率先して仲直りさせようとがんばっていたらしい。
 ちらりと、蓮のことを見ると目が合った。
「なんだよ」
「良かったね、仲直りできて」
 僕は前にいる二人を見ながら、つい口角を上げてしまうと、蓮はぼんやりと同じところを眺める。「まあな」とくすりと笑って、横目で目配せしてきた。
「菫さん、すごく喜んでたよ?」
 蓮はすっと視線を逸らし、うなじにかかる襟足に触れた。
「あっそ」
 そんなふうにぶっきらぼうに言う蓮だけど、その頬はほんのりと赤く染まり、目じりは山なりに円を描いていた。
 こういう始まりがあるんだと思うと、春も悪くないなって思える。
 それに、春が梅雨の前で良かった。
 もし梅雨が春の後だったら、この光景を菫さんは見ることができなかったかもしれないから。
 まだ菫さんが目を覚ますまで時間はあって、僕と蓮はリビングでコーヒーとお菓子を食べていた。そこには、花さんと輝さんもいた。
「ありがとうね、いつも来てくれて」
「いえ、来たくて来てるだけなので」
「良かったわね、蓮。良い友達ができて」
「うるさいよ、母さん」
 二人のやり取りに、僕はつい笑ってしまう。すると花さんはこっちを向き、ニコリと微笑んだ。菫さんの笑顔は、母親譲りなんだろうと思った。
「これからも、いつでも遊びに来て良いからね?」
「……はい」
 僕は少しだけ間を開けてしまって、それから、なんとか笑顔になることができた。
 花さんは別に、なにか意味を込めて言ったわけじゃないんだろうけど、いっしゅん、頭を掠めてしまった。
 梅雨を越えた、夏のことを言っているんじゃないかって。
「螢くん、菫がもう来て良いって」
 花さんにそう言われ、僕たちはリビングを後にした。菫さんの部屋の前に着くと、蓮は「んじゃ」と手をひらひらとさせて、自分の部屋のほうへ歩いていく。
「前から思ってたんだけど、蓮は来ないの?」
 肩を掴んで言うと、蓮は浅く息を吐いて横に首を振った。
「俺は良いよ。姉さんの顔なんて、もう見飽きたしな」
 蓮はそう言って自分の部屋に入ると、つい、僕は頬を掻いて下を向いていた。
 たぶん、気を使ってくれているんだろう。
 僕にとっては嬉しいことでもあるんだけど、家族の時間を奪っているんじゃないかって、たまに感じてしまう。
 左右に強く、首を振った。無理やりにでも、指で唇の端を引っ張り上げてから、両頬を軽く叩く。変な顔で、菫さんに会うわけにはいかない。
 ドアを開けると、菫さんはベッドの上で座っていた。