家に帰るけど、電気はどこもついていなかった。なにも言わないまま、奥のほうにある私の部屋に入っていく。ぱちっと電機をつける音が嫌に響いたけど、もう慣れてしまったからあまり気にならない。
離婚してから、お母さんは仕事場に復帰した。
それから帰っても家にだれもいないのは当たり前で、いつの間にか、「ただいま」も言わなくなっていた。
部屋に戻って、『植物病』と書かれた袋から薬を取り出し、順番通りにひたすら飲んでいく。たくさんありすぎて、どれになんの効力があるかなんて、とっくのとうに忘れてしまった。それなのに、どれをどのタイミングで飲めば良いかは分かっているんだから、不思議だなって思う。
空気が悪いから窓を開けた。
少し身を乗り出せば、絹を裂くような風音が立ち、つい「さむ」って声を漏らして身を縮こませてしまう。
それでも空は暖かそうで、ところどころ濃さが違くて、水彩絵の具で描いたみたいだった。
どんどん、日の出ている時間が短くなっている。
枯れ葉が舞い落ちるのを見て、私はため息を零してしまう。
もう、冬なんだよね。
どうしてこんなに時間って、あっという間なんだろう。
そう、あっという間。
私があんなふうに枯れて、ひらりひらりと散ってしまうのも。
だからか、ときどき思ってしまう。
美里さんや両親、蓮。
そして、螢くんに。
このまま、頼りっぱなしで、良いのかなって。
美里さんは「なにかに縋っているくらいがちょうど良い」って言っていた。たしかに、そうだとは思う。螢くんや家族がいなきゃ、ここまで生活できなかっただろうから。
けど、なにもかも貰ってばかりの私は、そこに含まれない気がする。
私は、だれかに与えることはできない。
だから、つつましく過ごそうと決めていた。海外に行きたいとか、色んなお店をめぐりたいとか、そんなわがままは言わない。
それに私は今、とても充実している。
たまに過ごす、家族団らんもそうだけど。
螢くんとの新鮮な時間が、今は一番楽しかった。
そろそろ眠気が限界だし、風呂にでも入ろうかな。
立ち上がって部屋を出ようとすると、机の上でスマホが鳴った。だるくなってきた体に力を入れて、よっこいしょと取りに行く。
お母さんかな。
そう思って少し気だるげに見たんだけど、ついスマホを両手で握って、画面に顔を近づけてしまう。
電話してきたのは、螢くんだった。
彼が連絡してくるときはだいたいLINEで、アポなしで電話してくることなんて、まずないのに。
急に、なんのようなんだろう。
深呼吸をして、指を震わせながらもおそるおそる繋げる。
『どうしたの、螢くん』
『いや、さっき大学の講義終わったんですけど、今から会えますか?』
『うん、大丈夫、少しなら』
『今どこにいますか?』
『家だよ』
『じゃあ、待っててください。今から向かうので』
電話が切れると、私は一目散に立ち上がって、部屋の掃除を始めた。場所は、私の部屋だけに絞る。きっと螢くんは早歩きで来るだろうから、リビングまで手を伸ばすのは、時間的に無理そう。
体のだるさなんて、いつの間にか忘れていた。
窓辺を指で擦って、小姑並みにほこりをチェックしていると、インターフォンがなった。玄関まで行き、呼吸を整えて開ける。
「こんにちは、螢くん。どうしたの急に?」
「じつは、少し相談したいことがあって」
螢くんは頬を掻きながら目線を落としていて、とりあえず中に入れる。様子を見るにすぐには終わらなさそうで、急いで掃除したかいがあった。
離婚してから、お母さんは仕事場に復帰した。
それから帰っても家にだれもいないのは当たり前で、いつの間にか、「ただいま」も言わなくなっていた。
部屋に戻って、『植物病』と書かれた袋から薬を取り出し、順番通りにひたすら飲んでいく。たくさんありすぎて、どれになんの効力があるかなんて、とっくのとうに忘れてしまった。それなのに、どれをどのタイミングで飲めば良いかは分かっているんだから、不思議だなって思う。
空気が悪いから窓を開けた。
少し身を乗り出せば、絹を裂くような風音が立ち、つい「さむ」って声を漏らして身を縮こませてしまう。
それでも空は暖かそうで、ところどころ濃さが違くて、水彩絵の具で描いたみたいだった。
どんどん、日の出ている時間が短くなっている。
枯れ葉が舞い落ちるのを見て、私はため息を零してしまう。
もう、冬なんだよね。
どうしてこんなに時間って、あっという間なんだろう。
そう、あっという間。
私があんなふうに枯れて、ひらりひらりと散ってしまうのも。
だからか、ときどき思ってしまう。
美里さんや両親、蓮。
そして、螢くんに。
このまま、頼りっぱなしで、良いのかなって。
美里さんは「なにかに縋っているくらいがちょうど良い」って言っていた。たしかに、そうだとは思う。螢くんや家族がいなきゃ、ここまで生活できなかっただろうから。
けど、なにもかも貰ってばかりの私は、そこに含まれない気がする。
私は、だれかに与えることはできない。
だから、つつましく過ごそうと決めていた。海外に行きたいとか、色んなお店をめぐりたいとか、そんなわがままは言わない。
それに私は今、とても充実している。
たまに過ごす、家族団らんもそうだけど。
螢くんとの新鮮な時間が、今は一番楽しかった。
そろそろ眠気が限界だし、風呂にでも入ろうかな。
立ち上がって部屋を出ようとすると、机の上でスマホが鳴った。だるくなってきた体に力を入れて、よっこいしょと取りに行く。
お母さんかな。
そう思って少し気だるげに見たんだけど、ついスマホを両手で握って、画面に顔を近づけてしまう。
電話してきたのは、螢くんだった。
彼が連絡してくるときはだいたいLINEで、アポなしで電話してくることなんて、まずないのに。
急に、なんのようなんだろう。
深呼吸をして、指を震わせながらもおそるおそる繋げる。
『どうしたの、螢くん』
『いや、さっき大学の講義終わったんですけど、今から会えますか?』
『うん、大丈夫、少しなら』
『今どこにいますか?』
『家だよ』
『じゃあ、待っててください。今から向かうので』
電話が切れると、私は一目散に立ち上がって、部屋の掃除を始めた。場所は、私の部屋だけに絞る。きっと螢くんは早歩きで来るだろうから、リビングまで手を伸ばすのは、時間的に無理そう。
体のだるさなんて、いつの間にか忘れていた。
窓辺を指で擦って、小姑並みにほこりをチェックしていると、インターフォンがなった。玄関まで行き、呼吸を整えて開ける。
「こんにちは、螢くん。どうしたの急に?」
「じつは、少し相談したいことがあって」
螢くんは頬を掻きながら目線を落としていて、とりあえず中に入れる。様子を見るにすぐには終わらなさそうで、急いで掃除したかいがあった。