「そういえばさ、父さんが今度の土曜日にバーベキューしたいって言ってんだけど、行くよな?」
「うん、行く。お母さんにも伝えとくね」
「りょーかい」と蓮はスマホをいじり出した。お父さんに連絡しているんだろうな。
鼻歌を口ずさみながら、私もLINEでお母さんに報告した。休憩中だったのか、すぐに既読がついて、ぜったいに使いかたを間違えているスタンプが送られてきた。ふふっと噴き出してしまった。
でも一年前までは、こんなふうに楽し気なスタンプを送ってくることはなくて、いつも業務連絡みたいな返事が来ていた。
それに、まだ住んでいる場所は別々だけど、家族いっしょに過ごす時間が多くなった。
そう思えば、ちゃくちゃくと良い方向に進んでいて、復縁も、時間の問題なんじゃないだろうか。
梅雨が来る前に、そうなってほしい。
私がいる今なら、まだ、やり直せる可能性はあるし、これが最後の親孝行なのかなって、考えているから。
ウェイターが来て、頼んだものが並べられる。
クリームで覆われた真っ白なパンケーキに、キャラメルソースが良い見た目のアクセントになっている。とたんに甘い香りに包まれて、見ているだけでも楽しめる。
そこで私は、パンっと手の平を叩いていた。
「そうだ、写真撮って螢くんにも見せてあげよ」
「仲良さそうだな」
「まあね」
「もうキスくらいした?」
「するわけないでしょ、蓮じゃあるまいし」
睨みつけると、「冗談だし」と言って蓮はコーヒーを飲み、足を組んだ。欠伸をして頬杖をつき、すかしたように鼻で笑った。
「まあ、とにかく、楽しくやれてるんだったら良かったよ」
それからすぐに、蓮はスマホに目を落とす。そこで私はくすりと失笑して、唇の片端を上げてしまう。
「なに、螢くん取られて寂しいの?」
「そういうことじゃねーよ、気持ち悪い」
そう言いながらも蓮の口角はいつまでも上がっていて、私もつられて小さく笑ってしまった。
再び会うようになってから、螢くんとの関わりかたはちょっとだけ変わった。
前までは写真を撮る、ということしかしていなかった。
けど今は、例えばカフェに行ってただおしゃべりをしたり、近場で買い物をしたり、いっしょに映画鑑賞をしたりと、他のこともするようになった。
普通に、なんでもないことなのかもしれない。
けど私にとっては、もっと螢くんに近づけたような気がして嬉しかった。
食べ終えて店を出ると、すっかり日は沈みかけていて、街並みはどこまでも茜色に染まっていた。
「明日は、螢と会うんだよな?」
「そうだよ」
「そっか。螢に変なことすんなよ?」
にやにやしてきて、少し強めにどつく。
「そうだ、蓮もくれば良いんじゃない? 螢くんも喜ぶと思うし」
「良いよ、邪魔しちゃ悪いし」
「螢くんはそんなこと、思わないと思うけどね」
転がっている小石をこつんと蹴って言うと、蓮は一度こっちに目を遣ってから、小さくため息を零す。
「二人の時間、みたいなものがあんじゃないの?」
うなじの髪をクシャっとして、空を仰いで目を細めた。たぶん、眩しいからだけじゃないと思う。
「そっか」
それだけを言った。
そこに続けるべき言葉があるんだろうけど、今さら言うような関係でもない気がした。十年くらい前なら、考えもしなかったと思う。
それでも螢くんなら言うんだろうなって、そんなふうに思い浮かべると、つい顔が綻んでしまった。
「うん、行く。お母さんにも伝えとくね」
「りょーかい」と蓮はスマホをいじり出した。お父さんに連絡しているんだろうな。
鼻歌を口ずさみながら、私もLINEでお母さんに報告した。休憩中だったのか、すぐに既読がついて、ぜったいに使いかたを間違えているスタンプが送られてきた。ふふっと噴き出してしまった。
でも一年前までは、こんなふうに楽し気なスタンプを送ってくることはなくて、いつも業務連絡みたいな返事が来ていた。
それに、まだ住んでいる場所は別々だけど、家族いっしょに過ごす時間が多くなった。
そう思えば、ちゃくちゃくと良い方向に進んでいて、復縁も、時間の問題なんじゃないだろうか。
梅雨が来る前に、そうなってほしい。
私がいる今なら、まだ、やり直せる可能性はあるし、これが最後の親孝行なのかなって、考えているから。
ウェイターが来て、頼んだものが並べられる。
クリームで覆われた真っ白なパンケーキに、キャラメルソースが良い見た目のアクセントになっている。とたんに甘い香りに包まれて、見ているだけでも楽しめる。
そこで私は、パンっと手の平を叩いていた。
「そうだ、写真撮って螢くんにも見せてあげよ」
「仲良さそうだな」
「まあね」
「もうキスくらいした?」
「するわけないでしょ、蓮じゃあるまいし」
睨みつけると、「冗談だし」と言って蓮はコーヒーを飲み、足を組んだ。欠伸をして頬杖をつき、すかしたように鼻で笑った。
「まあ、とにかく、楽しくやれてるんだったら良かったよ」
それからすぐに、蓮はスマホに目を落とす。そこで私はくすりと失笑して、唇の片端を上げてしまう。
「なに、螢くん取られて寂しいの?」
「そういうことじゃねーよ、気持ち悪い」
そう言いながらも蓮の口角はいつまでも上がっていて、私もつられて小さく笑ってしまった。
再び会うようになってから、螢くんとの関わりかたはちょっとだけ変わった。
前までは写真を撮る、ということしかしていなかった。
けど今は、例えばカフェに行ってただおしゃべりをしたり、近場で買い物をしたり、いっしょに映画鑑賞をしたりと、他のこともするようになった。
普通に、なんでもないことなのかもしれない。
けど私にとっては、もっと螢くんに近づけたような気がして嬉しかった。
食べ終えて店を出ると、すっかり日は沈みかけていて、街並みはどこまでも茜色に染まっていた。
「明日は、螢と会うんだよな?」
「そうだよ」
「そっか。螢に変なことすんなよ?」
にやにやしてきて、少し強めにどつく。
「そうだ、蓮もくれば良いんじゃない? 螢くんも喜ぶと思うし」
「良いよ、邪魔しちゃ悪いし」
「螢くんはそんなこと、思わないと思うけどね」
転がっている小石をこつんと蹴って言うと、蓮は一度こっちに目を遣ってから、小さくため息を零す。
「二人の時間、みたいなものがあんじゃないの?」
うなじの髪をクシャっとして、空を仰いで目を細めた。たぶん、眩しいからだけじゃないと思う。
「そっか」
それだけを言った。
そこに続けるべき言葉があるんだろうけど、今さら言うような関係でもない気がした。十年くらい前なら、考えもしなかったと思う。
それでも螢くんなら言うんだろうなって、そんなふうに思い浮かべると、つい顔が綻んでしまった。