さすがにもう時間がないということで、次会う約束だけをして、僕たちは解散することになった。
 僕はいつも通り、その場に残った。
 知るためにはどうしたらいいんだろう。まず、同じ趣味の映画を見よう。それと、あまりやったことがないことをやるのも良いかもしれない。
 そこで、僕はあることを思い出した。
 でも、まだしばらく言わないでおこう。たぶん、菫さんは嫌がるだろうから。そうならないためにも、準備はちゃんとしておかなくちゃいけない。
 だからとりあえず、いっしょに映画鑑賞をすることにしよう。
 そう決めたのにも関わらず、まだ、家に帰る気にはなれなかった。
 だから、写真でも見ようと思った。
 この前に見つけた、菫さんが映っているSDカードを取り出し、カメラに差し込んでディスプレイに映し出す。
 菫さんの笑っている写真を見ていると、つい頬が緩んでしまう。
 他の写真だってそうだ。
 僕の撮ったポートレートを見ると、温かさが胸の辺りにまで伝ってきて、心に灯りがともるみたいだった。
 枯れ葉が舞っている、すっかり真っ暗になってしまった空を仰いでいると、なんにも映っていないフィルムみたいだと思った。
 色んな人の笑顔がぼんやりと浮かんできて、ふと感じた。
 人が好きだとか、僕にはきっと抱えきれないような大きなものではなくて。
 僕は写真を撮って、それを見てくれる大切な人を笑顔にしたいという、ただそれだけのために、こうして写真を撮っているのかもしれない。
 それが、今は少しだけ変わって。
 菫さんの笑顔が咲いていてくれるなら、それだけで良いのかもしれない。
 このときの僕は、まだ、そう思っていた。