外に出ると、町並みは徐々に茜色へと近づいていた。立ち止まって、そこから零れるブルーモーメントを見つめていた。
 微かに、ペトリコールの香りがした。
 ちゃんと伝えて、相手がどうしたいのか知る。
 何十年も先輩のフミさんが言っているのだから、たぶん、正しいことなんだとは思う。
 けど、僕には無理だろうなとか、僕のことなんてなんとも思ってないだとか、そんな諦める理由ばかりが、ひっきりなしに僕の耳元で囁いてくる。
 それなのに、いつまで経っても。
 ふと浮かぶのは、花咲くような笑顔の彼女だった。
 頭の中はこんがらがって、子どもの部屋みたいにぐちゃぐちゃで。
 いったい、どうすれば正解なんだろうか。
 そんなことをいつまでも考えていた、僕だけど。
 とっくにもう、答えは出ているのかもしれない。
 今朝、早起きして整えた髪をぐしゃりとかき乱して、目一杯から両手を広げて、大きく深呼吸をした。
 それから、一気に走り出す。
 冷たい風をかき分け、肺が辛い物を食べたときみたいに痛んで、じんわりと、額や背中に汗が浮かんでいく。
 喉乾いた。さっさと帰って風呂入りたい。明日の課題、まだ終わってないや。
 あまり回らない頭で、ずっと考えていた。
 どうして、こんなことをしているんだろうって。
 ついに限界がきて、走れなくなってしまう。
 それでも、足を動かすことだけは絶対に止めなかった。
 今なら、まだ間に合うかもしれない。
 行っても、彼女がいないこともあり得る。
 というより、いない可能性のほうが十分高いと思う。
 たった数週間の付き合いで、それに二か月も会いに行かなかったんだから、当たり前だった。
 いなかったら、どうしよう。
 捨ててしまおうかな、彼女の映っている写真は、全て。
 それが、一番に思いついたことだった。
 少しくらいは、たぶん、マシにはなってくれるかな。
 その先はじっくりと時間をかけて、僕の中から失くしていけば良い。
 とにかく、会って確かめるしかなかった。
 すると、生暖かい風が背中から吹きぬけてくる。
 まるで夏の風がぶり返して、僕を後押してくれるみたいだった。
 僕はまた、走り出す。
 迷わないためにも、ひたすら前だけを向いていた。