「じゃあ、最初はきれいに撮っていきますね」
まずは正面の斜め上あたりから撮って、それから角度や色味、明るさなどを変えていくことにした。思ったより水滴が反射してしまうからPLフィルターで取り除き、辛い角度のときはブレないように三脚を使う。
風が止むのを待ち、シャッターを切る。
コスモス、なでしこ、ミニバラ。色とりどりの風景を収めていく。良い写真ができても、僕は撮るのをやめない。
選ぶのは僕ではなく、フミさんに確認してもらって決めている。
あくまで僕ではなく、これはフミさんのための作品だから。
そろそろ全部終わったかな、と大きく伸びをしていると、フミさんが奥からなにかを持ってきた。
「最後に、これをお願いできるかねぇ」
そこにあったのは植木鉢に生えている、真っ赤な彼岸花だった。「へえ」とつい声が漏れてしまう。
「彼岸花って、あんまり育てるイメージなかったです」
「そうねぇ。死人花、って言われるくらいだもの」
「そうですね、毒もありますし」
風が吹いて、彼岸花の花びらが一つ宙を舞った。その様子を見つめながら、フミさんは目じりに皺を浮かべて微笑む。
「でもわたしにとってはねぇ、彼岸花は生きがいでもあるのよ?」
そして、また植木鉢に目を落とす。とたんに、今度は悲しそうに笑っているように見えて、僕は彼岸花に目を向ける。
とても、しっかりと咲いていた。売り物とは違って荒々しさがあるけど、それよりもなんだかきれいだと、なんだか思えてしまった。
なんて言ったら良いのか、分からなくなっていた。
なにか、思い入れがあるのだろうか。
そう思っていると、フミさんはこちらを見て笑顔になり、ぽんぽんっと叩いて縁側に座るよう促された。
それからフミさんは昔の、第二次世界大戦のころの話をした。
フミさんには、健一さんという旦那さんがいた。
でも軍隊に入隊させられて、第二次世界大戦中に、惜しくも亡くなってしまったらしい。
「あの人はねぇ、大仏みたいに寡黙な、まさに男っていう人だったの。なのに、趣味は花を見るっていう、女の子みたいな人だったのよ? 変わってるわよねぇ」
フミさんはくすくすと笑いながら言っていて、僕も頬が綻んでしまう。悪口を言っているようで、その言葉には、今も消えない恋心が見え隠れしている気がした。
仲良しな夫婦だったんだろうな。そんなふうに、当時の写真を見ているみたいに伝わってくる気がした。
「だからね、花を見に行くのによく付き合ってあげてたのよぉ。それで最後にいっしょに見たのが、彼岸花だったわ。
彼岸花は、親死ね子死ね、っていう別名もあるんだけど、どうしてか知っているかい?」
僕はすぐに首を横に振った。たしかに彼岸花は、死、のイメージがあるけど、ここまでおそろしいものは聞いたことがなかった。
まずは正面の斜め上あたりから撮って、それから角度や色味、明るさなどを変えていくことにした。思ったより水滴が反射してしまうからPLフィルターで取り除き、辛い角度のときはブレないように三脚を使う。
風が止むのを待ち、シャッターを切る。
コスモス、なでしこ、ミニバラ。色とりどりの風景を収めていく。良い写真ができても、僕は撮るのをやめない。
選ぶのは僕ではなく、フミさんに確認してもらって決めている。
あくまで僕ではなく、これはフミさんのための作品だから。
そろそろ全部終わったかな、と大きく伸びをしていると、フミさんが奥からなにかを持ってきた。
「最後に、これをお願いできるかねぇ」
そこにあったのは植木鉢に生えている、真っ赤な彼岸花だった。「へえ」とつい声が漏れてしまう。
「彼岸花って、あんまり育てるイメージなかったです」
「そうねぇ。死人花、って言われるくらいだもの」
「そうですね、毒もありますし」
風が吹いて、彼岸花の花びらが一つ宙を舞った。その様子を見つめながら、フミさんは目じりに皺を浮かべて微笑む。
「でもわたしにとってはねぇ、彼岸花は生きがいでもあるのよ?」
そして、また植木鉢に目を落とす。とたんに、今度は悲しそうに笑っているように見えて、僕は彼岸花に目を向ける。
とても、しっかりと咲いていた。売り物とは違って荒々しさがあるけど、それよりもなんだかきれいだと、なんだか思えてしまった。
なんて言ったら良いのか、分からなくなっていた。
なにか、思い入れがあるのだろうか。
そう思っていると、フミさんはこちらを見て笑顔になり、ぽんぽんっと叩いて縁側に座るよう促された。
それからフミさんは昔の、第二次世界大戦のころの話をした。
フミさんには、健一さんという旦那さんがいた。
でも軍隊に入隊させられて、第二次世界大戦中に、惜しくも亡くなってしまったらしい。
「あの人はねぇ、大仏みたいに寡黙な、まさに男っていう人だったの。なのに、趣味は花を見るっていう、女の子みたいな人だったのよ? 変わってるわよねぇ」
フミさんはくすくすと笑いながら言っていて、僕も頬が綻んでしまう。悪口を言っているようで、その言葉には、今も消えない恋心が見え隠れしている気がした。
仲良しな夫婦だったんだろうな。そんなふうに、当時の写真を見ているみたいに伝わってくる気がした。
「だからね、花を見に行くのによく付き合ってあげてたのよぉ。それで最後にいっしょに見たのが、彼岸花だったわ。
彼岸花は、親死ね子死ね、っていう別名もあるんだけど、どうしてか知っているかい?」
僕はすぐに首を横に振った。たしかに彼岸花は、死、のイメージがあるけど、ここまでおそろしいものは聞いたことがなかった。