空を見上げると目が痛くなるような、薄っすら明るい曇りの日。
 フミさんが育てている、花壇の写真を撮る約束をしていた。
 お駄賃である昼食は撮影後になっていて、僕は早めに朝食を済ませておいてフミさんの家へと向かった。
 フミさんの家は木造一階建てで、たまに街中で見かけるサザエさんの家みたいな形をしている。そこに、フミさんは一人で住んでいた。
 近くに住んでいる息子さんの家族がよく帰ってきてくれるらしく、あまり寂しい思いはしていないと、僕が高校生くらいのころに言っていたのを覚えている。
 でもそれは、フミさんの人柄のおかげでもあるんだろうと、今は感じる。
 家族だとしても、どんなに家が近かったとしても、好きな人じゃなければ頻繁に会おうとは思えないだろうから。
 スリッパを履き、最近フローリングを新しくしたという廊下をするすると歩いて、リビングに向かう。何回も来すぎているせいか、今履いている黒いチェックのスリッパは僕専用みたいなものだった。
 写真を撮る前、少しお茶をすることになっていた。これもいつものパターンで、僕の前にはすでにブラックコーヒーが置かれていた。
「いつもありがとうねぇ」
「大丈夫です。だいたいご飯ごちそうになってますし」
「そうかい? ならいいんだけどねぇ」
 呼吸を一つ吐くようにコーヒーを飲む。体の内側も、カップを握る手も、じんわりと温まっていく。
「螢ちゃん、大学は楽しいかい?」
 そんなことを急に聞かれ、僕は肩を強張らせてしまう。少しだけ冷めてきたコーヒーを飲み干し、すぐに笑みを取り繕う。
「はい、すごく楽しいです」
 そう答えるとフミさんは麦茶を一口飲んで、僕のほうを見つめ、じっとカップの中を覗いてから頬を緩ませる。
「……なら良いんだよぉ」とだけ言って、フミさんは空になった二つのコップを持っていった。
 なんか、少し間があったような……気のせいだろうか。
 たぶん、飲み込むのに時間がかかっただけかな。
 そんなふうにして、いつの間にか考えるのはやめていた。
 それから僕たちは、リビングの外から庭に出た。
 どんよりとした曇り空に出迎えられ、庭の土が若干だけど湿っている気もする。たしか、昨日の深夜に雨が降っていたと、天気予報でやっていた気がする。
 つい、笑みを零してしまう。
「良かったですね、今日曇ってて」
 無意識に出ていた言葉に、フミさんは眉を顰めていた。
 僕はスマホで曇っているときの花の写真と、晴れているときの花の写真を調べ、スクリーンショットしてフミさんに見せる。
「どっちのほうが、きれいだと思いますか?」
「曇っているほうかねぇ。でも、どうしてなんだい?」
「曇っているほうは光の当たり方が優しくなっていて、光の当たる強さが同じくらいになるんです。だから、雨のほうが簡単に、それにきれいに映りやすいんです」
 指を差しながら、できるだけ丁寧に説明していく。フミさんは首を縦に揺らしながら感心したように聞いていて、らくらくフォンのメモアプリに書き込んでいた。