家に着けば、僕は真っ先に部屋のベッドへ倒れ込んだ。
 自然と「疲れたー」とベッドに向かって吐き出していて、動く気力といっしょに体が沈んでいく。
 いろいろとやるべきことはあるんだけど、今は、もうなにもしたくない。だんだんと、瞼が落ちていく。
 けど「ご飯できるてるよー」と廊下のほうから大きい声が聞こえてきて、ぱっちりと瞼を押し上げられた。
 僕はベッドに息を吐きだして、リビングに行く。せっかく作ってくれているんだから、食べないわけにもいかない。
 今日はカレーのようで、流し込むように一気に食べる。
「ごちそうさま」
「おかわりは?」
「いいよ、やることあるし」
「螢、少し疲れてるんじゃない? 最近、バイトの回数も多そうだし」
「大丈夫だよ。ただ眠いだけ」
「なら良いんだけど、あんまり無理しちゃだめよ?」
 心配そうに目を細めていて、僕は口角を上げる。
「分かってる。大丈夫」
 そう言って、すぐにリビングを出る。風呂とか歯磨きとか、寝る準備を済ませてから部屋に戻った。
 課題を始める前に、机の上に置いてある一眼レフカメラを手に取る。
 ブロアーというレモンの形をしたやつを、スポイトを使うみたいに押して風を起こす。それで大きなほこりを飛ばし、クリーニングペーパーで拭き取っていく。
 そんなふうにして、全てのカメラを磨いた。
 いつも使っている一眼レフカメラだけではなく、ミラーレスカメラ、そしてデジタルカメラも。
 一つ一つのパーツが高価だから、ということもある。
 けど、一番の理由は別にあった。
 カメラを磨いていると、それで撮った写真を思い出すことができる。そのときの感情や天気といった、ちょっと細かいところまで。
 だからカメラ磨きを、夏休みのころからルーティンにしていた。
 それが終わってから、机と向き合って課題を始めた。
 でもぱたりとすぐに手を止めてしまい、椅子に浅くもたれかかって見上げる。できもしないペン回しを始めしながら、天井に目を凝らしていた。
 掃除をさぼっているのが分かるくらい、天井がほこりっぽい。僕はフローリング用のワイパーを手に取ろうとしたけど、すんぜんで止めた。 
 こんなことをしている場合じゃない、早くやらなきゃ。
 そう言い聞かせ、また椅子に座る。
 だけど、どうにもやる気が湧かなかった。