最初は話しながら、なにげない風景を撮っていく。
 菫さんはもちろんのこと、蓮も緊張に強いからなのか、それとも撮影者が僕だからなのか、硬い感じはあまりしなかった。
 いっしょに過ごしているから、なんとなく分かるのかもしれない。笑ったときの目元とか、困ったときの髪に触れるしぐさとか、よく似ていた。
 素直になれないと言っていた、二人だけど。
 僕からしたら、すごく仲良しにしか見えなかった。
 それなりに撮り終えた僕たちは、ベンチで少し休憩することになった。
 菫さんはお手洗いに行き、僕と蓮の二人きりになる。僕はさっき撮った写真を確認していると、蓮も横から覗いてきた。
「良い写真だな」
「うん、そうだね」
「なあ、少し歩かね?」
 頷き、僕たちはすぐそばにあった階段を上っていく。湿っていて滑りそうだから、少し慎重に登っていく。蓮は慣れているからか、僕より少し登るのが速かった。
「姉さんのこんなに笑った顔、久しぶりに見たかも」
 そんなふうに蓮は目を細めて、つい首を傾げてしまう。
「そう? 仲良さそうに、見えたけど」
 蓮は目線を外し、襟足を軽くかき上げた。そこが痒いのかぽりぽりと掻きながら、階段の出っ張った部分に足先を乗せて、たったっとテンポよく上っていく。
「たぶん、螢のおかげだよ。いつも素っ気ない会話して、終わりみたいな感じ出し」
 どんどんペースを上げて行くわりに、声は少しずつ色をなくしていく。
 振り返り、僕の目を見据えた。
「だから、姉さんのことよろしくな」
 太陽のように、眩しく笑っていた。
 蓮は踵を返し、歩き出した。僕はその背中に目を凝らし、立ち尽くしてしまう。蓮に声をかけられ、追いかける。
 それから僕たちの会話は、なんてないことだった。
 オープンキャンパスに来ていた女子高校生にかわいい子がいたとか、バイトがだるいとか、今月も金欠とか。
 僕はなにも答えなかったのに、どちらからもさっきの内容をぶり返すことはなかった。
 でも僕の頭の中ではずっと、そのことを考えてしまっていた。
 よろしくな、ってなんだろう。
 友達としてなのか、それとも僕の菫さんに対する想いに気づいてなのか。
 ほんの一瞬はそんなふうに思ったけど、やっぱり違う気がした。
 あのときの蓮の視線は真っ直ぐで、僕の心に突き刺してくるみたいだった。なにか覚悟を決めたような、そんな重い表情だった。
 だから、やはり蓮は……。
 僕は顔を上げ、木漏れ日の中で瞼を落とした。自然の澄んだ香りを吸っても、頭の中は少しもすっきりしてくれない。
 いったい、どう答えれば正解だったのかな。
 そればかりが、いつまで経っても離れてくれなかった。