いつの間にか、順東大学附属病院にたどり着いていた。
蓮がすたすたと入っていくのを横目に、僕は深く息を吐いて足を進めた。
話しに夢中になっていたけど、忘れていたわけじゃなかった。
蓮は何かしらの、重い病を患っているかもしれない。
でも今はとにかく、なんともないように振る舞おう。
きっとそれを、蓮も望んでいる気がするから。
病院に入ると、保健室よりも濃いアルコール臭がして、眉間に皺が寄ってしまう。体はかなり強いほう。小さな病院にさえ、予防接種くらいでしか行ったことがない僕にとっては、すごく強烈だった。
蓮は「ちょっと待ってて」と言って、受付近くの待合スペースに向かう。なにやら探している様子で、蓮は再びスマホに目を向ける。すると、蓮はため息を零して戻ってきた。
「まだだって。てか、それなら早く言えよって感じだよな」
蓮は普段あまり言わない文句を、すらすらと口にした。
姉弟の間では、普段こんな感じなんだろうか。いつも澄ましている蓮でも、なんだかんだ弟らしいところもあるんだな。
ついくすりと笑ってしまうと、蓮にぎろりと睨まれた。僕は咳払いをして、座って待つことを提案した。
隣に座らせてもらうおばあさんに会釈してから、腰を下ろす。
「蓮のお姉さんって、少し天然なんだね」
「違うって。ただドジなだけだから」
蓮は苦笑しながら左右に手を振っていて、僕はいっそう唇の端が上げてしまう。
もしかしたら、蓮とお姉さんは意外と仲良しなのかもしれない。喧嘩するほど仲が良いとは、よく言ったものだと思った。
蓮の手にあるスマホが震えた。
蓮はため息交じりに立ち上がったのを見るに、たぶん、やっと蓮のお姉さんが着いたんだろう。
僕は蓮とは違った意味で深く息を吐いて、後ろをついていった。
蓮が声をかけて、近づいていく。
でも、立ち尽くしてしまった。
口を動かすこともできなくて、石にでもなっているみたいだった。
僕の前に立っていたのは、一人の女性。
おそらく、蓮のお姉さんなんだろう。
たしかに、目を疑ってしまうほど、美人な女性だった。
でも、問題はそんなことじゃなかった。
長い黒髪に乗っかったカンカン帽に、白いワンピースと、それにも負けないくらい真っ白な肌。
そして黒く澄んだ、ガラス玉みたいにまん丸な瞳。
こんなの、見間違いようがなかった。
「菫、さん?」
「え、螢くん?」
おもわず、声が漏れていた。それはどうやら、菫さんも同じようだった。
「え、なに、知り合い?」
「うん。友達、みたいな感じだよね?」
「まあ、そうですね」
菫さんが目配せをしてきて、僕はどうにか応える。開いた口は塞がらないし、頭はスクランブルエッグみたいにこんがらがっていた。
まさか、蓮のお姉さんが菫さんだったなんて。
たしかに見比べてみれば、大きくてくりっとした、カラコンいらずの瞳はよく似ている。
それに、菫さんと蓮の会えない日は、同じ水曜日。
たぶん、いつもここで待ち合わせして、毎週会っているからなんだろう。
そこらへんを踏まえると、姉弟だということには納得がいくような気もしてくる。
それでも、あまりにも突然のこと過ぎて頭が追いつかず、僕だけが会話から取り残されてしまう。
知らない内に、蓮はトイレに行っていた。
つまり、二人きりだった。
蓮がすたすたと入っていくのを横目に、僕は深く息を吐いて足を進めた。
話しに夢中になっていたけど、忘れていたわけじゃなかった。
蓮は何かしらの、重い病を患っているかもしれない。
でも今はとにかく、なんともないように振る舞おう。
きっとそれを、蓮も望んでいる気がするから。
病院に入ると、保健室よりも濃いアルコール臭がして、眉間に皺が寄ってしまう。体はかなり強いほう。小さな病院にさえ、予防接種くらいでしか行ったことがない僕にとっては、すごく強烈だった。
蓮は「ちょっと待ってて」と言って、受付近くの待合スペースに向かう。なにやら探している様子で、蓮は再びスマホに目を向ける。すると、蓮はため息を零して戻ってきた。
「まだだって。てか、それなら早く言えよって感じだよな」
蓮は普段あまり言わない文句を、すらすらと口にした。
姉弟の間では、普段こんな感じなんだろうか。いつも澄ましている蓮でも、なんだかんだ弟らしいところもあるんだな。
ついくすりと笑ってしまうと、蓮にぎろりと睨まれた。僕は咳払いをして、座って待つことを提案した。
隣に座らせてもらうおばあさんに会釈してから、腰を下ろす。
「蓮のお姉さんって、少し天然なんだね」
「違うって。ただドジなだけだから」
蓮は苦笑しながら左右に手を振っていて、僕はいっそう唇の端が上げてしまう。
もしかしたら、蓮とお姉さんは意外と仲良しなのかもしれない。喧嘩するほど仲が良いとは、よく言ったものだと思った。
蓮の手にあるスマホが震えた。
蓮はため息交じりに立ち上がったのを見るに、たぶん、やっと蓮のお姉さんが着いたんだろう。
僕は蓮とは違った意味で深く息を吐いて、後ろをついていった。
蓮が声をかけて、近づいていく。
でも、立ち尽くしてしまった。
口を動かすこともできなくて、石にでもなっているみたいだった。
僕の前に立っていたのは、一人の女性。
おそらく、蓮のお姉さんなんだろう。
たしかに、目を疑ってしまうほど、美人な女性だった。
でも、問題はそんなことじゃなかった。
長い黒髪に乗っかったカンカン帽に、白いワンピースと、それにも負けないくらい真っ白な肌。
そして黒く澄んだ、ガラス玉みたいにまん丸な瞳。
こんなの、見間違いようがなかった。
「菫、さん?」
「え、螢くん?」
おもわず、声が漏れていた。それはどうやら、菫さんも同じようだった。
「え、なに、知り合い?」
「うん。友達、みたいな感じだよね?」
「まあ、そうですね」
菫さんが目配せをしてきて、僕はどうにか応える。開いた口は塞がらないし、頭はスクランブルエッグみたいにこんがらがっていた。
まさか、蓮のお姉さんが菫さんだったなんて。
たしかに見比べてみれば、大きくてくりっとした、カラコンいらずの瞳はよく似ている。
それに、菫さんと蓮の会えない日は、同じ水曜日。
たぶん、いつもここで待ち合わせして、毎週会っているからなんだろう。
そこらへんを踏まえると、姉弟だということには納得がいくような気もしてくる。
それでも、あまりにも突然のこと過ぎて頭が追いつかず、僕だけが会話から取り残されてしまう。
知らない内に、蓮はトイレに行っていた。
つまり、二人きりだった。