いっきにカフェラテを飲み干し、さっさと店をあとにした。夜に近づこうとして涼しくなっているとはいえ、熱いことに変わりはない。
 でも今は、どうでも良くなっている気がする。
 さっきまで、涼しい部屋にいたからかな。
 それもあるんだろうけど、それだけではないのは、たしかだと思った。
 後ろから生暖かな夏の風が吹いて、服が一気に前へなびいていく。僕の背中を押してくれるみたいで、足が浮ついていくのを感じていた。
 僕は今にでも走り出して、叫びたい気持ちでいっぱいになっていた。
 大学受験に受かったときも、中学時代に初めて彼女ができたときにも、こんなこと感じたこともなかったのに。
 講義を受けているときも、バイトをしているときも、空を仰いだときも、窓の外を眺めたときも。
 ふとしたときに想うのは、いつも彼女で。
 つい今の関係の、その先を求めてしまう僕がいた。
 僕と彼女では、なにもかもがつり合ってはいないんだろう。
 そんなことは、分かっている。
 けれどもこの気持ちは、そんな些細なことではなくならないのかもしれない。
 こんなの、初めてだった。
 みかん色とグラデーションしている、ブルーモーメントを見つめる。
 深く息を吐いて、網で焼いた餅のように、つい、頬が緩んでしまった。
 やっぱり、今も浮かぶのは菫さんの笑顔ばかりで。
 十代、最後の夏。
 僕の心には、恋の花が芽吹いたのかもしれない。