ただ一つ、引っかかることがあった。
 菫さんは元々、体調が悪かったんだろうか。
 しゃがみ込んでしまったのは、泉場公園を出て十五分かニ十分くらい歩いたときだった。だから、可能性はそれくらいしか思いつかない。
 無理、させていたんだろうか。
 足元に視線を下げ、唇をきつく噛んでしまう。
 ずっといっしょにいて気づけなかったのが、本当に情けなかった。
 オレンジジュースとアイスコーヒーを持っていき、彼女の前の席に着いた。すると彼女は目線を落として、横髪に触れていた。だいぶ、汗も引いてきていた。
「ごめんね」
 菫さんは苦笑いしながら言い、僕はすぐさま左右に首を振る。
「いや、こっちこそ気づかなくてすみません。これ、ハンカチ使ってください。あの大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫」
「そっか……それなら、良かったです」
 僕はほっとしてコーヒーを一口飲むと、そこで会話は途切れてしまって、コーヒーを飲むペースが上がっていた。こんなに気まずいの、出会ったばかりのころ以来だった。
 すると、前からくすりと噴き出したような声が聞えた。
「私、体力ないんだよね。けっこうインドアだから」
 菫さんは眉を垂らし、困ったように笑みを浮かべていた。どうやら、話そうと思えるくらいには元気になったようで、僕もそこでやっと笑顔になれた。
 でも同時に、舌打ちをしたいくらいイラついてしまった。
 菫さんが、こんなふうに自然と笑顔を浮かべられるくらい、元気になっているはずがない。僕がいつまでも暗い顔をしているから、無理しているんだろう、きっと。
 菫さんに、気を使わせてばかりだ。
 体調が悪いのは、僕じゃなくて彼女。
 このままではいけない。
 僕は浅く息を吐き出して、口を切った。
「意外ですね。旅行とか、アクティブなことが好きなのかなって思ってました」
「そんなことないよ。旅行なんて、もう十年以上も行ってないもの」
「そうなんですか。でも、僕も修学旅行から一度も行ってないです」
 菫さんはふふっと笑って「仲間だね」と言い、僕も「そうですね」と頬が緩んでしまった。
 それにしても、意外だった。
 いろいろと面白い視点を持っているからか、旅行とか散歩とかで発見して、無意識に身に着けたものだと思っていた。
 だとしたら、いったいどんな趣味を持っているんだろうか。気になって聞いてみると、バックから一冊の小説を取り出した。
「本とか漫画はよく読むかな。それと映画とか」
 まんま同じ趣味だった。ガッツポーズが出そうになるのをどうにか堪えつつ、僕は色々と聞いていった。
 どうやら菫さんは、恋愛映画が好きらしい。
 それも『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』とか、『orange』とか、意外と女子高生が好きそうなものばかり。
 にわかな僕だから、マニアックな海外映画がきたらどうしようかと思っていたけど、ほとんど僕が見たことあるものばかりだから安心した。
 気づけば、少女漫画が映画化したものが多かった。
「菫さんって、少女漫画好きなんですか?」
「あっ……やっぱりバレちゃうよね」
「バレたくなかったんですか?」
 そう聞くと、菫さんはじゃっかんそっぽを向きながら、長い黒髪の毛先に触れた。くるくるとねじるけど、解けばするりと元に戻っていく。
 彼女は、上目づかいでこっちを見た