とはいえ、彼女はチョコしか食べない偏食な人というわけでもなく、僕が持参したお菓子もおいしそうに食べていた。
 だからもしかしたら、ルーティン的なものなのかもしれない。
 ルーティン、か。
 思えば、僕にはそういうものはなにもなかった。
 なんとなくでやっていることはあるのかもしれないけど、意識してやるとでは話が全く違う気がする。
 なにか一つ、写真を撮るためにやっても良いのかもしれない。
 といってもなにも思い浮かばなくて、まあ、それはのちのち決めることにした。
 僕はじゃがりこのじゃがバター味を持ってきた。この味は僕が一番好きな味だった。紅茶を飲みながらじゃがりことチョコを交互に食べていると、なぜか菫さんが難しそうに眉を顰めているのが視界に入った。
 声をかけると、彼女はじゃがりこをじろじろと見ながら口を切る。
「なんでこれの名前、じゃがバター味なんだろうね」
 いっしゅん固まってから、首を傾げてしまう。
「どういうことですか?」
「だってチーズ味があるんだし、だったらじゃがチーズ味にしたり、バター味にしたりとか、どっちかに寄せるべきじゃない?」
 たしかに、と顎に指を据えていた。すると、なんとなく考えがまとまって、言葉にした。
「でも、バター味より、じゃがバター味のほうがなんとくおいしそうじゃないですか? 味のイメージをも、しやすい気がしますし」
「そっか、たしかにね」
 菫さんは納得したように首を縦に振っていた。
 けれど、僕はそのことについてまだ考えていた。
 バターとじゃがバター。
 別にどっちだって良いのかもしれない。
 それでも、おもしろい着眼点だと思った。
 僕は今まで、名前に対して首を傾げたことなんてなかった。
 名前は、ただ呼ぶためのもの。それに元々あるものを勝手に変えることなんて、簡単にできることではない。
 だからこそ、そこに意識が向かなかったのかもしれない。
 ちらりと目を向けると、ぽりぽりとじゃがりこを食べていた。僕はその横顔に向け、そっとシャッターを切った。
 彼女にとってはなんてことないんだろうけど、どうしてそんな景色が見えているのか、僕にはとても気になっていった。
「螢くんって、彼女いるの?」
「はい?」
 菫さんはチョコを食べながら言ってきて、とっさに彼女のほうを向いて、甲高い変な声が出てしまう。
「彼女、いるの?」
 少し、詰め寄って聞いてくる。
 いったい、なにを言っているんだろう。
 さっきまでじゃがりこの話しをしていたのに。
 とにかく、急いで手と首を左右に振った。
「ふーん」と菫さんは花びらのようにふわりと微笑む。
 僕は一度口を開きかけてから、小さく息を吐いてじゃがりこを食べた。
 かり、かり、と音がして、黙っていることを許してくれているみたいだった。
 それがよけいに、胸を絞めつけてくる。
 どうして、こんなに余裕なんだろう。
 僕は、彼女の一つ一つのことで、いとも簡単に揺さぶられてしまうのに。
 軽く息を吐き、いっきにじゃがりことチョコを食べまくった。それを見て菫さんは小さく笑っていた。
 彼女が笑ってくれるなら、それで良いのかもしれない。