今日も変わらず、唸るような熱い日差しだった。どこにいるかも分からないセミが、声だけはやかましく教えてきて、よけいに夏を主張してくる。
 朝だというのに、汗が止まらなくて肌がペタペタするし、背中の汗で服が張り付いて気持ち悪いし。
 僕にとって夏は、写真を撮ること以外で得することなんてなかった。
 だから、夏が好きではなかった。
 今僕は、バイト先の本屋に向かっていた。
 いつもなら授業があるこの時間帯だけど、今は夏休みで、その分バイトの時間に費やしていた。新しい機材やその他の趣味なども含めると、嫌でもバイトはしなければいけなくて、夏休みを活かさないわけにはいかない。
 本屋に着くと、まだ開店していないから静かだった。店内で流れているBGMを鼻歌しながら控室へ向かうと、店長とすれ違って挨拶をした。店長は少し目を丸くして、にかりと笑顔になった。
「嶋野くん、なにか良いことでもあった?」
「え、どうしてですか?」
「なんだか、いつもより挨拶が元気な気がしてね」
 僕は首を傾げてしまう。
「静かだからじゃないですか?」
「あー、うん、そうかもしれないね」
 店長は腕を組みながら納得したように頷いて、僕もそれに合わせて頷いた。すると店長はちらりとこっちを見た。
「でもなんか、いつもよりにこにこしてるよね」
 とっさに頬を片手で挟んだ。
 そんなに顔に出ていただろうか。
 それが本当だとすれば、ちょっとはずい。これ以上墓穴を掘らないよう、さっさと控室に入ろうとする。
 すると店長は「そういえば」、と前置きをした。
「休日なのにロングで入ってないのって、このあと予定があるから?」
 僕は一瞬肩を強張らせてしまいながら頷くと、店長はまるでなにかを察したかのように優しく目じりが垂れていった。
「そっかそっか。じゃあ、今日もがんばってね」
 そう言って店長は店の中へと行って、僕はため息交じりに頬を掻いていた。これからはマスクをしようかな、とも思ったけど、熱くて着けてられないだろうから、やめておくことにした。
 開店しても、あまりお客さんは来なかった。
 朝だということもあるけど、夏休みだとたまにこういう日がある。このままこんな感じだと良いなと思いながら、まばらに来るお客さんに挨拶をしていた。
 ついつい出そうになる欠伸を噛みしめる。さすがにだれも来ないと、それはそれで辛かった。
 暇つぶしに、店内に流れているBGMをバレないように口ずさんでみた。米津玄師のlemonという歌。あまりカラオケにいかない僕だけど、人気すぎてどこでも流れているから、自然と覚えてしまっていた。
 そういえば僕はいつも、鼻歌だったり、歌を口ずさんだりしない。
 良いカメラが買えたときとか、アプリの無料クーポンが当たったときとかでも、僕は鼻歌を歌ったりしてまでは喜ばなかった気がする。
 相当、浮かれているのかな。
 でも、しょうがないことだとも思った。
 今日の午後は、哀川菫さんと会う予定なんだから。