目が合うと、彼女はやんわりと表情を緩めた。僕もつられて笑みを返すけど、僕は頭の中で首を傾げてしまった。
 彼女の笑顔を、もっと見ていたい。
 けどそれといっしょに、思うことがあった。
 きれいな笑顔なんだけど、見つめれば見つめるほど違和感のようなものがチラついていた。
 でも、どこがどうとかは、なんにも分からなかった。
 すごく、ふんわりしたもの。
 それを知りたくて、もっといっしょにいたいと思ったのかもしれない。
 それでも、僕はなかなか話しかけることができずにいた。
 なにをしたら良いのか、分からなかった。
 切り札に、白猫の話しでもしようかと思っていたんだけど、いつの間にかどこかへ行っていた。
 だからどうしようもなく、ぼうっと空を眺めていた。
 雨は変わらず激しく、上から聞こえる水をはじく音に包まれている。
 そのせいで、となりから音が聞こえてこない。
 今、なにしてるんだろう。
 横目でみると、飲み物を飲んだり、なにかを食べたりしていた。
 カメラをいじるフリをして、ちらちらと彼女を見てしまう。
 それでも気取られないように、ずっと上を向いていると、彼女がこっちを向くのが視界に入った。
「学生、だよね?」
「はい、大学生です」
「そっか。私、大学に行ってないんだけど、やっぱり大学って楽しいの?」
「そうですね。想像していたようなはっちゃけた感じではないですけど、とても充実してます。えっと……」
 そういえば、まだ――。
「そういえば私たち、まだ名前も知らなかったね」
 後頭部に触れながら、彼女は笑みを向けてきて、僕もついつられて笑顔になっていた。
 でも、不思議なことがあった。
 彼女は、私たち、と言った。
 そんな些細なことなんだけど、僕は気になってしまった。
 どういうつもりで言ったんだろう。
 どうしてそんなふうに他人のことを、私たち、と括れるんだろう。
 分からないけど、心の内側が温められるような、笑顔になってしまうような、浮つくような、少し変な気もちだった。
 受け入れてくれている証拠、みたいだからだろうか。
 ただ、嬉しかったということだけは、僕自身が感じていることだった。