外へ出ると、ぽつぽつとまだら模様が地面にできていて、どんどん増えていく。念のため、折り畳み傘を持ってきておいて良かった。大学の門を出て、交差点を渡ったころには雨脚は激しくなり、気づけばアスファルトに模様はなくなって、真っ黒になっていた。
 アスファルトを打ち付ける小刻みな音、折り畳み傘からはみ出て微かに濡れて冷たい腕、土とか草とかに似た匂い。
 雰囲気にあおられ、僕はすかさずカメラを取り出した。
 夕立だった。
 雨なんて、久しぶりだ。
 梅雨に飽きるほど雨の写真は撮ったけど、どうやら、いざ撮れなくなると恋しくなるものらしい。
 さっそく、シャッターを切った。
 道路のほうを撮っていると、たまたま車が通って水しぶきを上げ、レース中みたいなかっこいい写真が撮れた。
 僕はしゃがんで、被写界深度を浅くして周囲をぼやかし、アスファルトを打ち付ける細かな水しぶきを間近で撮ろうと思った。
 けど、急に視界が真っ白になった。
 故障かと思って目を離せば、にゃー、と鳴き声が聞こえた。
「なんだ、君だったんだね」
 そこには昨日会った白猫がいて、目が合うとにゃーと返事をして、その猫は僕にすり寄ってきた。人馴れしすぎだし、毛についた水滴で濡れるし。
 でもこのかわいらしさの前では、全てがどうでも良く思えてくる。
 水滴を払いたいのか体を振ろうとしているのが分かって、とっさにカメラを服で隠す。大事なものは守れたけど、顔には水滴がたくさん飛んできた。顔を拭うと、まん丸い瞳が覗いてきた。僕はおもわず頭を撫でて、口元が緩んでいた。
 せっかくだから、雨バージョンも撮ろう。
 でもカメラを向けると、白猫は公園のほうに走っていってしまった。
 僕も後を着けて公園に入った。かわいい動物の気まぐれに振り回されるのは、そんなに悪くないかもしれない。
 人に振り回されるよりは、数倍マシだからかな。