もうバイトに行かなければならない時間になっていた。だから蓮のほうを見るけど、なぜかこっちを向いていた。目を瞬かせてしまうと、蓮は天井を見上げて小さく息を吐いてから、横目でこっちを見た。
「なあ、螢」
蓮は前髪に触れながら僕の名前を読んできて、首を傾げてしまう。
すると一度こっちを見据えてから、すぐに逸らしてしまった。
「頼みたいこと、あんだけど」
少しどもったような声で言い、僕は口を丸くしてしまうけど、とりあえず頷いておく。いつもの蓮らしくなくて、こっちまで少しぎこちなくなってしまう。
蓮は後頭部を掻いて、こっちに目を向ける。
かすかに、その瞳は揺れていた。
「再来週の水曜日にさ、姉さんと俺の写真、撮ってほしんだよね」
一度開きかけそうになった口を、きつく閉める。黙って笑みを浮かべて、そっと頷いたら、蓮はどこかほっとしたように目を細めた。
どうしてそんな深刻そうな顔なのか、写真を撮るわけがなんなのか、とても気になる。
けど、赤の他人である僕が聞くべきことではないと思ったから、聞けなかった。
友達とはいえ、蓮の姉である赤の他人を撮るため、お駄賃はしっかりと受け取るということで固まった。
僕はいらないと言ったんだけど、そういうわけにもいかないらしく、こっちが折れるしかなかった。そのかわり、ご飯を奢ってもらうという約束にしてもらった。さすがに、友達からお金を受け取るのは、なんだか気が引けたから。
バイトだということを伝えて、僕は図書室を後にした。
図書室の近くだからなのか、やけに静かで、ずっと下を向いていた。少しだけ、歩幅が大きくなっていた。
あんなに自信なさそうな蓮、始めて見た。
今思えば、蓮は自分のことをあまり話さない気がした。
あったとしても、趣味のことくらい。ああ見えて映画とか、漫画とか、小説とか、インドアな趣味が多いから、僕とはなにかと話しがあった。
よく思い返しても、蓮は大人数でいるときはたいてい聞き役で、僕と二人のときも、家族や過去の話題が出てきたことなんて、一度もなかったかもしれない。
水曜日の用事を教えてくれないのと、なにか関係があるのだろうか。
いくら考えても分かりようがなくて、こつ、こつ、とソールで床を叩く音が、やけに大きく聞こえた。
「なあ、螢」
蓮は前髪に触れながら僕の名前を読んできて、首を傾げてしまう。
すると一度こっちを見据えてから、すぐに逸らしてしまった。
「頼みたいこと、あんだけど」
少しどもったような声で言い、僕は口を丸くしてしまうけど、とりあえず頷いておく。いつもの蓮らしくなくて、こっちまで少しぎこちなくなってしまう。
蓮は後頭部を掻いて、こっちに目を向ける。
かすかに、その瞳は揺れていた。
「再来週の水曜日にさ、姉さんと俺の写真、撮ってほしんだよね」
一度開きかけそうになった口を、きつく閉める。黙って笑みを浮かべて、そっと頷いたら、蓮はどこかほっとしたように目を細めた。
どうしてそんな深刻そうな顔なのか、写真を撮るわけがなんなのか、とても気になる。
けど、赤の他人である僕が聞くべきことではないと思ったから、聞けなかった。
友達とはいえ、蓮の姉である赤の他人を撮るため、お駄賃はしっかりと受け取るということで固まった。
僕はいらないと言ったんだけど、そういうわけにもいかないらしく、こっちが折れるしかなかった。そのかわり、ご飯を奢ってもらうという約束にしてもらった。さすがに、友達からお金を受け取るのは、なんだか気が引けたから。
バイトだということを伝えて、僕は図書室を後にした。
図書室の近くだからなのか、やけに静かで、ずっと下を向いていた。少しだけ、歩幅が大きくなっていた。
あんなに自信なさそうな蓮、始めて見た。
今思えば、蓮は自分のことをあまり話さない気がした。
あったとしても、趣味のことくらい。ああ見えて映画とか、漫画とか、小説とか、インドアな趣味が多いから、僕とはなにかと話しがあった。
よく思い返しても、蓮は大人数でいるときはたいてい聞き役で、僕と二人のときも、家族や過去の話題が出てきたことなんて、一度もなかったかもしれない。
水曜日の用事を教えてくれないのと、なにか関係があるのだろうか。
いくら考えても分かりようがなくて、こつ、こつ、とソールで床を叩く音が、やけに大きく聞こえた。