「植物病の人が、また亡くなったんだって」
 僕はそのことを何気なく、蓮に向かって言った。ちょうど何も話していなかったから、話題になると思ったからだ。
 でも、彼はなにも返してはこなかった。
 眉をひそめてしまいつつも蓮のほうを向くと、彼はなぜかぼうっと下を向いていた。目が、少し大きく開いて見えるのは、気のせいだろうか。
「どうしたの、蓮」
「……ん、ああ、いや、たしかによく見るよな、植物病」
 蓮は少し慌てたように頭を掻いて答えた。
 それからも笑みを浮かべながら話していたけど、僕にはどこか引きつっているように見えた。
 どうしたんだろう、蓮。
 なにか、あったのかな。
 でも、ただ課題のせいで疲れているだけかもしれない。
 だから僕は、いつもと変わらないように意識して話した。
 話題が尽きてきたころ、そろそろ始めたほうが良いと思って、蓮のほうに振り向いて言おうとした。
 けど、できなかった。
 それはさきに、蓮が口を開いてしまったからだった。
「植物病って、どう思う?」
 蓮は目にかかるくらいのさらさらな黒髪を無造作にかき上げ、僕の目を見つめてきた。僕は、固まってしまった。
 この服どう思う? って聞くみたいに自然だった。
 たしかに話題を振ったのは僕だけど、それはとっくに前のことで、今さら掘り返す意味が分からなかった。
 頬を掻きつつ、首を傾げて聞いた。
「えっと、どうして?」
「いや、ただなんとなく」
 ただ、なんとなく。
 本当にそれだけで、こんなことを、あんな表情で聞くだろうか。
 そんなふうに考えてはしまうけど、蓮はいつも話しているときと同じ雰囲気で、やっぱりなんとなくなのかな、とも思えてきた。
 でも、いったいどう答えるのが正解なんだろう。
 植物病の人をかわいそうだとは思うけど、なんの関わりもない僕がそれを言うのはどうかと思うし、なんとも思わないのも、人としてどうなんだろうか。
 腕を組んで黙っていると、ははっと蓮は失笑した。
「ごめん、今のは忘れていいから。てか、休みすぎたな。さっさと始めようぜ」
 そう言って蓮はイヤホンをして、課題を再開してしまった。僕も手は動かしたけど、頭の中ではさっきのことでいっぱいになっていた。
 本当に忘れて良いとは、あまり思えなかった。
 冗談で植物病をどう思っているかなんて、聞いてくるだろうか。
 少なくとも、僕ではありえない。
 でも、問い詰めることはできなかった。
 そこまで踏み込んで良いのか、分からなかったのかもしれない。