うだるような暑さの中、私は実家に帰ってきていた。真冬になれば大雪に埋もれるこの町も、真夏は都会と同じくらいに暑くなる。避暑地のつもりで来たら大変なことになるのにね、と笑うのは、町のホテルで支配人を務める叔父だ。
「ももちゃん、いっしょにあそびにいこう!」
「蘭ちゃん久しぶり。いいけど、どこに行くの?」
「この間遠足で行ったロープウェーにまた乗りたいんだって。一緒に来てくれない? 蘭、あんたと行きたいってきかないの」
 姪っ子のわがままで連れ出されたロープウェーは、山頂のパノラマパークと町の温泉街をつないでいる大きなものだ。私も子どものころに散々行ったのだけれど、姪はももちゃんにもおはなおしえてあげるの! と、夏休みに入る前から意気込んでいたらしい。山頂に着くと、蘭ちゃんはどんどん勝手に進んでいこうとするので、慌てて手をつないだ。
「あれー? えんそくのときのおはな、なくなっちゃったー」
「お花は咲く時期が決まってるからね。遠足って春でしょ?」
「うん、ごがつだった」
「もう夏だから、春の花は終わっちゃったんだよ。でもほら、今はまた違うお花がいっぱい咲いてるから、見て見よう?」
 がっかりする四歳児をなだめすかしながら、パーク内を散策する。私たちはレストランにいるね、と笑顔で言い放った姉夫婦は、きっと今頃アイスでも食べて優雅に過ごしているのだろう。まあ、普段ずっと相手をしているのだから、たまにはゆっくりすればいいと思うけど。
「なつもかわいいはながいっぱいだねー」
「そうだね。どれが好き?」
 子どもの単純さ、純粋さには癒される。特別子ども好きというわけではないけれど、大人にはなかなか持ち合わせていない感覚があるから、こうしてときどき触れ合うと心が洗われるような気分になる。
 夏季休暇の前日にも、客からの理不尽なクレームで精神を削られたばかりだった。四年目になっても、こちらの話を全く聞かずにあれこれ言ってくる相手に対する上手い対処の仕方は迷走している。課長には慰められたけれど、精神的なダメージと情けなさでそのあとも仕事に身が入らないままだった。休みになるからなんとか片づけたけれど、普段の勤務ならやけになっていただろう。
「蘭ちゃん、そろそろアイスでも食べようか。好きなの買ってあげるよ」
「ほんと? やったあ!」
 小さな手をつないで、レストランへ戻る。炎天下の中、遊具で遊んだりぐるぐる歩き回ったりして、暑さが限界だ。店内の涼しさに生き返った気分になる。
「お姉ちゃん、すごいよ。私、自分の子どもであっても相手をできる自信はないや」
「生まれたらだいたいなんとかなる精神よ。あとは子どもへの愛情かな。憎たらしいときもあるけど、やっぱり自分と旦那の血を引いてると思うと特別な存在だから」
 姉は苺のアイスを口の周りにべったり付けて満面の笑みを見せる愛娘を抱き上げた。隣で義兄がティッシュを出して、その顔を拭いている。その姿は、あの道の駅で見かけた家族と同じように幸せに満ちている。きっと本人たちにしかわからない苦しみや葛藤もあるのだろうけれど、それを超えるほどの幸福を得るには、やっぱり「愛」と名前のつくものが必要なのだ。
「そっか……」
「なんかぱっとしない顔してるわねえ。何かあった?」
「んー……ちょっとね」