「ショートは火曜日までなんじゃ。じゃけえ、今日は部活に出れるよ」
教室に戻ったあと、ニコニコしながら尾崎が言った。川内は少し首を傾げて言う。
「大丈夫? 無理せんでええよ?」
「無理なんかしよらんよー。がんばるけえね!」
そう言って、腕を上げて力こぶを作ってみせる。
「ほいじゃが、もうそんなにがんばることはないで?」
肩をすくめて木下が言う。
「花壇はチューリップ植えるの待ちじゃし、畑はもう耕して苗も植えとるし、温室の花の水やりは朝、川内がやりよるし、プランターは芽が出るの待ちじゃし」
「そうなん?」
少しがっかりしたように、尾崎が言う。
男子二人としては、力仕事がなくなって楽になってきた、という感じなのだが、張り切っていた尾崎としては肩透かしといったところだろう。
「まあ、畑とか温室とか様子を見に行くんでもええんじゃない? なんもなけりゃ帰りゃいいんじゃし」
そう言うと尾崎は肩を落とした。
「なんじゃあ。張り切っとったのになあ」
「でも毎日様子を見るんは大事なよ? 一緒に行こ」
川内がそう言うと、尾崎はうん、とうなずいた。
あんなに気が強いのに、相変わらず尾崎は川内の言うことだけはよく聞く。
◇
結局、特にやることもなく、放課後は温室内でワイワイとしゃべるだけになってしまった。
そこに浦辺先生がやってきて、尾崎の顔を見て嬉しそうに笑った。
「四人、揃ったのう」
「じいちゃんが施設に入居したら、また毎日部活に来れるよ。あと少し」
と尾崎がニコニコとして返した。敬語などどこにもないが、それに注意する気も失せたらしい。
「ほうか、そりゃあ良かったのう」
浦辺先生はその答えに小さく笑って、そして続けた。
「いうか、尾崎は案外、真面目じゃのう」
「案外って」
「最初は、名前だけの幽霊部員になるんか思いよったで」
腰に手を当ててそう言う。
「昔は、園芸部員もいっぱいおったみたいなが、ほとんど幽霊部員じゃったらしいんじゃ」
「へえー」
「まあワシが赴任する前の話じゃけえ、ようわからんが。ワシが山ノ神に来てからは、部員が一人か二人のときしか知らんのう」
それは顧問が浦辺先生だからでは……と思ったが、口には出さなかった。
そのとき、あ、と思いつく。なるほど。それは先生自身もそう思っていて、だから顧問が誰か黙っておけという話になったのか。
「でもお前ら全員二年生じゃけえ、三年になって引退したら、園芸部がまたなくなるで」
またなくなる。それはちょっと寂しい。
俺は川内目当てのようなものだけれど、それでも畑を耕したり花壇を整えたりして、それなりに愛着もある。
あれがまた元に戻ってしまうのは、ちょっと嫌だな、と思う。
「一年生、勧誘せんと」
「とりあえず、ポスターとか書くとか?」
「野菜育ててバーベキューやるいうて書いたら、釣られるヤツもおるんじゃないか」
「……それは……止めとけ。非公式なけえ」
「あっ、今までのポスターあるよ。たぶん生徒会室にある」
川内が立ち上がりながらそう言った。
「保存されとるんか」
「うん、参考にしようと思うて、一回、見してもろうたことある。取ってくる」
言うが早いか、川内は踵を返して温室を出て行った。どうやら張り切っている様子だ。
その背中を見送っていると、ちょいちょい、と尾崎が俺の肩を指で叩いた。
教室に戻ったあと、ニコニコしながら尾崎が言った。川内は少し首を傾げて言う。
「大丈夫? 無理せんでええよ?」
「無理なんかしよらんよー。がんばるけえね!」
そう言って、腕を上げて力こぶを作ってみせる。
「ほいじゃが、もうそんなにがんばることはないで?」
肩をすくめて木下が言う。
「花壇はチューリップ植えるの待ちじゃし、畑はもう耕して苗も植えとるし、温室の花の水やりは朝、川内がやりよるし、プランターは芽が出るの待ちじゃし」
「そうなん?」
少しがっかりしたように、尾崎が言う。
男子二人としては、力仕事がなくなって楽になってきた、という感じなのだが、張り切っていた尾崎としては肩透かしといったところだろう。
「まあ、畑とか温室とか様子を見に行くんでもええんじゃない? なんもなけりゃ帰りゃいいんじゃし」
そう言うと尾崎は肩を落とした。
「なんじゃあ。張り切っとったのになあ」
「でも毎日様子を見るんは大事なよ? 一緒に行こ」
川内がそう言うと、尾崎はうん、とうなずいた。
あんなに気が強いのに、相変わらず尾崎は川内の言うことだけはよく聞く。
◇
結局、特にやることもなく、放課後は温室内でワイワイとしゃべるだけになってしまった。
そこに浦辺先生がやってきて、尾崎の顔を見て嬉しそうに笑った。
「四人、揃ったのう」
「じいちゃんが施設に入居したら、また毎日部活に来れるよ。あと少し」
と尾崎がニコニコとして返した。敬語などどこにもないが、それに注意する気も失せたらしい。
「ほうか、そりゃあ良かったのう」
浦辺先生はその答えに小さく笑って、そして続けた。
「いうか、尾崎は案外、真面目じゃのう」
「案外って」
「最初は、名前だけの幽霊部員になるんか思いよったで」
腰に手を当ててそう言う。
「昔は、園芸部員もいっぱいおったみたいなが、ほとんど幽霊部員じゃったらしいんじゃ」
「へえー」
「まあワシが赴任する前の話じゃけえ、ようわからんが。ワシが山ノ神に来てからは、部員が一人か二人のときしか知らんのう」
それは顧問が浦辺先生だからでは……と思ったが、口には出さなかった。
そのとき、あ、と思いつく。なるほど。それは先生自身もそう思っていて、だから顧問が誰か黙っておけという話になったのか。
「でもお前ら全員二年生じゃけえ、三年になって引退したら、園芸部がまたなくなるで」
またなくなる。それはちょっと寂しい。
俺は川内目当てのようなものだけれど、それでも畑を耕したり花壇を整えたりして、それなりに愛着もある。
あれがまた元に戻ってしまうのは、ちょっと嫌だな、と思う。
「一年生、勧誘せんと」
「とりあえず、ポスターとか書くとか?」
「野菜育ててバーベキューやるいうて書いたら、釣られるヤツもおるんじゃないか」
「……それは……止めとけ。非公式なけえ」
「あっ、今までのポスターあるよ。たぶん生徒会室にある」
川内が立ち上がりながらそう言った。
「保存されとるんか」
「うん、参考にしようと思うて、一回、見してもろうたことある。取ってくる」
言うが早いか、川内は踵を返して温室を出て行った。どうやら張り切っている様子だ。
その背中を見送っていると、ちょいちょい、と尾崎が俺の肩を指で叩いた。