「隼冬があ、寝坊するからあ」
「ワシっ?」
尾崎と木下が揃って登場だ。
いったいどうしてこんなところに。
頭の中でクエスチョンマークが乱舞する。混乱なんてレベルじゃない。
……まさか、つけてきたのか。どうして? いつバレた?
ついでに言うと、尾崎の出で立ちがもうヤバい。黒いシャツに金字で大きくドクロとなにやら英語のようなものが書かれているが、なんて書いてあるのか読めない。
ジーンズのタイトスカートは短くて、そこから伸びる細い足に編み上げのサンダルを履いている。
何本ものブレスレットと、金色のネックレスをして、目立つことこの上ない。
派手な上に、威圧感がただごとではなかった。どこのヤンキーだ。
「千夏ちゃん」
しかし、驚くと同時にほっとしたように、川内が息を吐きながら言う。
「なに? 誰?」
三人の女子を舐めるように見ている尾崎の質問に、川内は俺への返答と同じように答えた。
「中学の、同級生」
すると尾崎は、にこやかな表情から一変、眉をひそめた。
「……ああ」
その表情の変化に驚いたのか、三人は少し身を引いた。
しかも尾崎は腕を組んで、これみよがしに舌打ちする。
あまりの態度の悪さに、こちらもドン引きだ。
「ウチらこれから遊ぶんじゃけど、ハルちゃんになんか用があるん?」
「え……いえ、別に……」
三人は、身を寄せ合い始めた。いくらなんでもビビりすぎでは。いや、気持ちは少し、わからないでもないか。
「ほうなん? なんか三人が取り囲んどったけえ、イジメられとるんじゃないかって心配したんよー」
残念ながら、尾崎のほうが三人をイジメているように見えるのが悲しいところだ。
「いや、そんな、イジメなんか」
三人は慌てて手を振っている。
尾崎は驚いたように口を開けて、そしてその前に開いた手を当てた。ものすごく、わざとらしい。
「ごめーん、じゃあ勘違いじゃわー。ウチが気にしすぎとるんかもしれん。ごめんね、感じ悪かったじゃろ? 許して」
手を合わせて白々しくそんな風に謝る。
「え……は、はい……」
「ほんまー? 良かったあ」
そう言って、川内のほうに振り返る。
「なんかされよったらウチがぴしゃげてやろうか思いよったあ、危なあい」
「うん、大丈夫よ」
川内はこくりとうなずく。
三人はそれを見て安心したのか、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
「じゃ、じゃあね、遥ちゃん」
「うん、じゃあね」
「お邪魔しましたー」
すたこらさっさ、という効果音を付けたいくらいに、あっという間に三人の姿は見えなくなった。
呆然とその姿を四人で見送る。
しばらくして、低く小さな声がすぐそばで聞こえた。
「ブスが」
ケッ、と吐き棄てるように尾崎が言っている。
「いや、口が悪いわ。怖えよ」
木下が横で自分自身を抱くようにして、二の腕を擦っている。
しかしそれには構わず、尾崎は川内を覗き込むようにして、柔らかな声音で言った。
「ハルちゃん、またなんかあったらウチに言いんさいよ、シメちゃるけえ」
声は優しいが、言っていることは物騒極まりない。
「大丈夫よ」
そう言って、川内は苦笑している。
「彼氏がおるけえ、嫉妬しとるんよ。モテん女の僻みよ、気にしんさんな」
尾崎がそう言って、川内の肩を叩いている。どうやらあの三人による囲みを、そう解釈したらしい。
いや、ちょっと待て。彼氏?
なんでそれを知っているんだ。しかもなんでこの場に登場できたんだ。
「……なんで、ここにいんの」
恐る恐る、そう訊いてみる。もしかしたら川内が言ったのかもしれないが、川内もさっきから驚いたような表情をしているし、違う気がする。
「だってー、なんかホームセンター行ったとかいう次の日から、態度がおかしいし」
「そういや、ワシ、自転車借りたじゃん? そのあと二人きりじゃったってことじゃろ? じゃけえなんかあったんかと思うて」
二人揃って、しれっとそう言う。
「これは日曜にデートでもするんじゃないかって、呉駅で張っとった」
「はあっ?」
「仁方と焼山じゃろ? 待ち合わせするなら呉駅じゃ思うて」
「朝からじゃったら、十時くらいかなーって。せいぜい、二時くらいまで張れば会える思うたんよ」
恐ろしい……。どんな探知能力だ。
「一生懸命、隠しとったのに……」
顔を真っ赤にして、川内が言う。
「あ、ハルちゃんじゃないよ。主に神崎の態度がおかしかったんよ」
つまり、俺のせいだった。
やっぱり全然、自然じゃなかった。
「なんだよ、もう……」
なんだか力が抜けて、その場に膝を抱えてしゃがみ込む。
あはは、と楽しそうに笑う声が、頭の上から降ってきた。
「ワシっ?」
尾崎と木下が揃って登場だ。
いったいどうしてこんなところに。
頭の中でクエスチョンマークが乱舞する。混乱なんてレベルじゃない。
……まさか、つけてきたのか。どうして? いつバレた?
ついでに言うと、尾崎の出で立ちがもうヤバい。黒いシャツに金字で大きくドクロとなにやら英語のようなものが書かれているが、なんて書いてあるのか読めない。
ジーンズのタイトスカートは短くて、そこから伸びる細い足に編み上げのサンダルを履いている。
何本ものブレスレットと、金色のネックレスをして、目立つことこの上ない。
派手な上に、威圧感がただごとではなかった。どこのヤンキーだ。
「千夏ちゃん」
しかし、驚くと同時にほっとしたように、川内が息を吐きながら言う。
「なに? 誰?」
三人の女子を舐めるように見ている尾崎の質問に、川内は俺への返答と同じように答えた。
「中学の、同級生」
すると尾崎は、にこやかな表情から一変、眉をひそめた。
「……ああ」
その表情の変化に驚いたのか、三人は少し身を引いた。
しかも尾崎は腕を組んで、これみよがしに舌打ちする。
あまりの態度の悪さに、こちらもドン引きだ。
「ウチらこれから遊ぶんじゃけど、ハルちゃんになんか用があるん?」
「え……いえ、別に……」
三人は、身を寄せ合い始めた。いくらなんでもビビりすぎでは。いや、気持ちは少し、わからないでもないか。
「ほうなん? なんか三人が取り囲んどったけえ、イジメられとるんじゃないかって心配したんよー」
残念ながら、尾崎のほうが三人をイジメているように見えるのが悲しいところだ。
「いや、そんな、イジメなんか」
三人は慌てて手を振っている。
尾崎は驚いたように口を開けて、そしてその前に開いた手を当てた。ものすごく、わざとらしい。
「ごめーん、じゃあ勘違いじゃわー。ウチが気にしすぎとるんかもしれん。ごめんね、感じ悪かったじゃろ? 許して」
手を合わせて白々しくそんな風に謝る。
「え……は、はい……」
「ほんまー? 良かったあ」
そう言って、川内のほうに振り返る。
「なんかされよったらウチがぴしゃげてやろうか思いよったあ、危なあい」
「うん、大丈夫よ」
川内はこくりとうなずく。
三人はそれを見て安心したのか、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
「じゃ、じゃあね、遥ちゃん」
「うん、じゃあね」
「お邪魔しましたー」
すたこらさっさ、という効果音を付けたいくらいに、あっという間に三人の姿は見えなくなった。
呆然とその姿を四人で見送る。
しばらくして、低く小さな声がすぐそばで聞こえた。
「ブスが」
ケッ、と吐き棄てるように尾崎が言っている。
「いや、口が悪いわ。怖えよ」
木下が横で自分自身を抱くようにして、二の腕を擦っている。
しかしそれには構わず、尾崎は川内を覗き込むようにして、柔らかな声音で言った。
「ハルちゃん、またなんかあったらウチに言いんさいよ、シメちゃるけえ」
声は優しいが、言っていることは物騒極まりない。
「大丈夫よ」
そう言って、川内は苦笑している。
「彼氏がおるけえ、嫉妬しとるんよ。モテん女の僻みよ、気にしんさんな」
尾崎がそう言って、川内の肩を叩いている。どうやらあの三人による囲みを、そう解釈したらしい。
いや、ちょっと待て。彼氏?
なんでそれを知っているんだ。しかもなんでこの場に登場できたんだ。
「……なんで、ここにいんの」
恐る恐る、そう訊いてみる。もしかしたら川内が言ったのかもしれないが、川内もさっきから驚いたような表情をしているし、違う気がする。
「だってー、なんかホームセンター行ったとかいう次の日から、態度がおかしいし」
「そういや、ワシ、自転車借りたじゃん? そのあと二人きりじゃったってことじゃろ? じゃけえなんかあったんかと思うて」
二人揃って、しれっとそう言う。
「これは日曜にデートでもするんじゃないかって、呉駅で張っとった」
「はあっ?」
「仁方と焼山じゃろ? 待ち合わせするなら呉駅じゃ思うて」
「朝からじゃったら、十時くらいかなーって。せいぜい、二時くらいまで張れば会える思うたんよ」
恐ろしい……。どんな探知能力だ。
「一生懸命、隠しとったのに……」
顔を真っ赤にして、川内が言う。
「あ、ハルちゃんじゃないよ。主に神崎の態度がおかしかったんよ」
つまり、俺のせいだった。
やっぱり全然、自然じゃなかった。
「なんだよ、もう……」
なんだか力が抜けて、その場に膝を抱えてしゃがみ込む。
あはは、と楽しそうに笑う声が、頭の上から降ってきた。