なんだ、あれ。

 川内を取り囲むように、三人の女子。その子たちは笑っている。傍から見れば、仲良しともとれなくもない。
 けれどその中心にいる川内は、やっぱり俯いたままで。
 周りの三人は楽しそうだが、川内は楽しそうには見えない。

 彼女たちはきっと、川内の友人ではない。小学時代、中学時代を同じ学校で過ごした同級生たちだ。川内の表情が物語っている。

 どうする? けれど、ここで見知らぬ人間が分け入るのも、おかしくないか。却って、感じ悪いと、川内が悪く言われたりしないか。

 イジメられていたなんて人に言いふらすなんてひどい、イジメてなんていないのに。

 そう言われるのが簡単に予測できるから、彼女らに不躾な態度をとってもいけない。

 いや、でも、放っておくなんてできないだろう。彼女らの話が終わるのを待ってはいられない。その間、川内が傷つく言葉をどれだけ浴びせられるか。
 『関係ない人間』と思われて、舐められても困る。一発で、無遠慮に、彼女らの中に分け入ってもおかしくない人間として突入しなければ。

 少なくとも、この状況を黙って見ているよりはマシだと覚悟を決めて、足を動かし、声を張る。

「遥!」

 その声に、四人ともがこちらにいっせいに振り向いた。
 川内が一番驚いたような顔をしていた。当たり前か。

「ごめん、待たせて」

 そう言いながら、手を振って歩み寄る。その間、誰も言葉を発しなかった。逆に緊張する。

「友だち?」

 なるべくにこやかに、穏やかな声でそう言ってみる。
 川内は、その言葉にはうなずかなかった。

「中学の……同級生」

 ぼそぼそとそんなことを言う。

「えっ、なに、遥ちゃん、彼氏?」
「う……うん」
「へえー……」

 三人ともが、まじまじとこちらを眺めてくる。
 それから、にっこりと、明らかに余所行きの表情で笑ってきた。

「こんにちはあ」
「こんにちは。ごめん、話が盛り上がっとるみたいなかった(だった)けど」

 言外に、邪魔をするな、という感情をにじませる。
 しかし彼女らはめげない。

「ああ、いえ、久しぶりに偶然会ったから、声掛けただけなんでー」
「そうなんだ、ごめんね」

 そう言って、話をぶった切る。
 それで立ち去るかと思ったら、三人は顔を見合わせて、そして川内のほうに振り向くと、言った。

「遥ちゃん、彼、あの話、知っとるん?」

 クスクスと笑いながら、そんなことを言う。
 俺に、『なんのこと?』と言って欲しいのだろうか。
 ムカつく。こんなヤツらの言うことを、黙って聞いていることはない。

「植物の話なら、知ってる」

 口調が強くなった。それに一瞬ひるんだ様子だったが、けれど彼女らはめげずに続ける。案外、しつこい。いや、しつこいからこそ、小学校から中学校にかけて、同じことでずっとからかってきたのか。

「ええー、じゃあ、信じとるんですかあ?」

 殊更に、驚いたように目を見開いてみせる。
 いったい俺に、どう言って欲しいのだろう。

「嘘おー」

 そう言って、ニヤニヤと笑う。
 イライラする。川内は、山ノ神高校に来て正解だ。

「少なくとも、笑ったりはしない。感じ悪いな」

 頭に来たので、思ったことをそのまま言った。愛想笑いを浮かべる必要は、微塵もない。
 俺は川内と違って、我慢強くはないのだ。

「な……」
「ごっめーん! お待たせえ!」

 急に大きな声がその場に響き、慌てて振り返る。聞いたことのある声だった。