翌日、朝の温室を見に行った川内は、教室に来てから俺たちに向かって言った。

「思うたんじゃけど、芽が出そうになったら、すぐ知らせたほうがええよね」

 それを聞いて、ああ、と思う。温室に一番行くのは川内だし、尾崎は今は立ち寄ることすら稀だから、教えられるものなら教えたほうがいいだろう。

「確かに。芽が出るの、見たい」

 と尾崎が賛同する。

「そんなに都合よく見れるんか?」

 木下が首を傾げる。

 芽が出たら知らせる、ならともかく、芽が出そうになったら、というのは無理なんじゃないのかな、と思うものだろう。
 いや、もしも川内が植物と話ができるというのなら、可能なのだろうか。

「わからんけど……もしかしたら、見れるかも」

 川内はぼそぼそとそんなことを言う。
 その表情を見て思う。
 可能なんだ。少なくとも、川内はそう思っているのだ。

「あっ、じゃあ、連絡先教える」
「ワシも」
「俺も」

 そう言って、それぞれがスマホを取り出す。

「もうグループにしよ」
「そうじゃの。ワシ、招待する」
「ど、どうやるん?」
「ハルちゃん、貸して」

 そんな風にワイワイと、連絡先を交換する。
 そうしてコミュニケーションアプリに、『山ノ神高校園芸部』というグループができた。

 しかし俺は申し訳ないが、そこから川内の連絡先にアクセスして、他の二人に知られずに日曜の予定を立てることを、考えていたのだった。

          ◇

 そうこうしているうちに、日曜日。
 結局、呉駅で待ち合わせすることになった。

 姉ちゃんが軍資金をくれたので、お昼ご飯を一緒に食べようと、十一時に待ち合わせだ。

 昨日の夜はスマホでいろいろ調べたのだが、横から画面を覗いてきた姉ちゃんが、

「あんたみたいな高校生が、こじゃれた店に行ったところでアタフタするだけよ。あっちに行きたいところがないか訊いて、特になければファストフードで十分じゃわ」

 と、ありがたいのかどうかはまだわからないがアドバイスをくれたので、街を歩きながら川内がどこに行きたいか聞こう、だなんて考える。

 バスに揺られて平谷線を下りる間も、ファストフードでいいのかな、こじゃれたところはダメと言われても、だからといってラーメン屋とかに入るのは変じゃないか? とか、ご飯を食べたあとはどうしたらいいんだ? とか今さら考える。

 ちなみに姉ちゃんに訊いてもみたが、「そんなんテキトーテキトー」とひらひらと手を振りながら言われた。やっぱり姉ちゃんの意見を参考にするのは失敗ではないのか、と不安にもなってくる。

 ちなみになにを着て行こうかとタンスの前で悩んでいたときも、勝手に部屋に入ってきて、

「あんまり気合い入れんさんな。かえって痛いわ。シャツにジーンズでええ」

 と、適当に選ばれた。
 今さらだけれど、もしかして遊ばれているのではないかと、血の気が引く。
 いや、姉ちゃんはあれで、そんなに意地悪では……いや意地悪ではあるが、そこまで悪い……いや、どうだろう。

 バスが呉駅に到着して、待ち合わせの金色の大きなスクリューのモニュメント前に向かう。

 いくらなんでも、目立つところにしすぎたかな、川内は目立つのは嫌だろうから別のところがよかったかもしれない、といきなり失敗した気分になりながら、足を動かした。

 すると、遠目に川内がモニュメント前にいるのが見えた。先に到着したのか。待たせてしまった。
 薄いベージュの麻っぽいワンピースで、川内の雰囲気と合っていて、かわいいな、なんて口元が緩む。
 いやそんなことを考えている場合ではない。時間的には遅刻ではないけれど、待たせるなんて、もっての外だ。

 慌てて走り出そうとすると、見覚えのない女子が三人、そちらに駆け寄ったのが見えた。

 川内はその三人を見て、視線を下に向けた。